ケモノである私は今日も奮闘する。１【怪物事変】 (ページ5)

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第四話「無遠慮」ページ5

やっぱこのピンクのウサギが気になってるのだろうか。思い違いだったら恥ずかしい。

なるべく自然な様子で田んぼに視線を移し、やはり自然な態度でそちらの方へ歩いて行った。
その間も視線を感じていたが、旅館の角を曲がってしまえばもう大丈夫だろう。

少し時間を置いてその場に留まり、そろりと角から様子を伺うと少年の姿は消えていた。

はー、良かった。一体何だったんだろう。着ぐるみが珍しかったのかな？

「もしもし、お姉さん？」

「ゲァッ！？」

旅館の塀に凭れかかり、ホッと一息付いていたら横からちょんちょんと肩を叩かれ滅茶苦茶驚き間抜けな声が口から飛び出した。ついでに腎臓と心臓が一緒に飛び出しそうになった。

横を見ると、作務衣(って言うんだっけ？)に身を包んだ少年の姿。私の反応に驚いた様子を見せるも、すぐ人当たりの良い笑顔を浮かべた。えらく接客に慣れてると見たぞ。そんな冷静なことを思っている私の心臓はばっくばくのドッキドキである。

「えっと、お姉さんは本日から弊旅館にお泊まりになられる方ですよね？」

「は、はい、今日からこちらでお泊まりになる予定の隠神Aです…」

「僕は女将の息子の弥太郎と申します！お二人の滞在中のお給仕を勤めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします！」

「(えっ、私より年下なのにバリバリ働いてるし言葉遣いが丁寧……今時の子しゅごい)
こ、こちらこそお願いしゃす……」

礼儀正しく頭を下げた少年……弥太郎くんに急いで私も頭を下げる。視界の隅でピンクのうさ耳がぴょこんと揺れる。
彼も先ほどの少年と同じく初めて着ぐるみを見たのか、頭を上げた後チラチラと私の姿を見ていた。少しだけ居心地の悪さを感じる。

微妙な私の顔で気付いたのか、彼はハッとして咳払いを１つこぼし、また取り繕ったような笑みを浮かべた。

「ところで、こちらで何を？」

「……外の新鮮な空気を吸いに？」

何故か疑問形になってしまったが、「宿にいても暇だったから外に出て何かないか探そうとしてた」って正直に言ったらなんか失礼な感じに思われるだろうと感じ、えへへと笑いながら誤魔化すことにした。

旅館へ戻る途中、隣を歩く弥太郎くんはやたら私に話しかけてきたのでコミュ障なみの吃り加減で相槌をうっていた。うーん、初っ端から積極的な子はどうも苦手……