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K「ふじがや…」
抱きしめた華奢な体から、消えそうな声が聞こえた。
言ってしまった。絶対言ってはいけなかったことを。
K「ごめんね…」
俺の両腕を緩く掴んだ北山に、体を離される。
「違う、北山。北山は何も…」
なんで、俺は。
好きな人を困らせて、謝らせてるんだろう。
K「…もしかしたらって、思った時もあったんだ。
医務室で二階堂にも言われた」
「うん…聞こえてたよ」
K「自分の居場所と…大切にしてくれる人がいるって感覚を…優先しちゃった。俺、ほんとさいて…」
「違うんだって…」
K「違うくない」
離れられないのはどっちだろう。
北山の方か、俺の方か。
K「…薄々感じることもあったのに、縋ったんだ。
二階堂の言う通り、気持ちを利用したに違いない…」
「そんなこと、俺は思ってないから」
K「戻るね…。辛い思いさせたよね、本当に…ごめん」
トボトボと、リビングの机の上にある薬のビニール袋だけ取って、北山が玄関へ歩いてゆく。
その薬があれば、俺無しでも北山は生きていけるの…?
俺の元に、北山が無しでも生きていける薬はないのに。
「北山…!!まって、」
K「…どっちにしても、もう逃げてちゃダメだって思ってたんだ。連絡が途絶えて…そろそろちゃんと向き合って話さなきゃって思ってたから…」
「何を話すの」
K「何を、って…」
「たまさんのことが好きだよって言うの…?
今までのこと謝って、正直に色んなこと伝えて、これからも一緒にいたいって…そう言うの?」
K「…うん」
北山が居るべき場所はここじゃないと分かってたけど。
なんだかんだいつかは…なんて、多分どこかで思ってしまっていたのだろう。
そんな甘い考えの俺に、鋭く現実を刺してきた北山に、初めて憎しみを抱いた。
「…たまさんは今、家にいないよ?」
K「え…?」
「もう家で待ってないよ。何ヶ月経ったと思ってるの。
宮田さん家にいるって、ずっと。最近はもう明るく過ごしてるって」
K「みや、た…?」
「みやっちって言えば…わかる?」
K「藤ヶ谷…今、何を知ってるの?」
「宮田さんにとってのたまさんは
俺にとっての北山だよ」
固まってポロッと大粒の涙を流した北山の、息がどんどん乱れてゆく。
苦しそうにしゃがみ込み、やがてそれは号泣となった。
俺は、いつものように宥めたりなんてせず
立ったまま北山を見下ろす。
そっか。
そんな乱れるほど、たまさんが好きなんだ。
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櫻弓 想(プロフ) - わたたいさん» コメント、応援ありがとうございます😊🎵 (2022年8月3日 21時) (レス) id: 463202596f (このIDを非表示/違反報告)
わたたい(プロフ) - 続き楽しみです!更新楽しみに待ってます! (2022年8月3日 1時) (レス) id: 1f79981bd4 (このIDを非表示/違反報告)
櫻弓 想(プロフ) - 20090301soraさん» 応援ありがとうございます☺️ (2022年7月25日 1時) (レス) id: 03403d3789 (このIDを非表示/違反報告)
20090301sora(プロフ) - 櫻弓 想さん» ありがとうございます!お話楽しみにしています! (2022年7月25日 0時) (レス) id: 3ab1df2fa5 (このIDを非表示/違反報告)
櫻弓 想(プロフ) - 20090301soraさん» コメントありがとうございます。新しいお話を非公開状態で、保存だけしているのですが、お話を開いたときの最新更新時間はその保存した時の時間で出るみたいです💦公開ありでの最終更新時間は、私の作品一覧から見られます🙇🏻♀️ (2022年7月25日 0時) (レス) id: 03403d3789 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:櫻弓 想 | 作成日時:2022年6月8日 21時