猫パンチ チャンソン ページ13
僕の裸を見て、Aが叫んだから。
それにこっちもあの状態でAのそばにいたら、
またヘンな気を起こしそうだったから。
さっさとお風呂に逃げこむ気だったのに。
「ケガって、ここだったんだ…」
いきなり僕の腕をつかんだA。
「え？ ああ、もうほとんど治ってるけどね」
「仕事中のケガだったの？ 痛かった？」
「うん、バラエティ番組のロケ中にね。
ちょっとは痛かったけど、かすり傷だよ。
でも、ケガのこと話したっけ？」
Aは肘のかさぶたをみつめたまま、ぼそり。
「…ううん。ツイッターで友達がみたって、教えてくれて。
気になってんだ。
なんで私には話してくれないのかなーって」
「…え？」
「あ…」
Aはしまったって顔。
もしかして。
昨日様子がおかしかったのは、コレが原因？？
「えっと、ごめん。
たいしたことじゃないから、話すのすら忘れてたけど…。
話したほうがよかった？
A？ 怒った…？」
そう聞いてもAは下を向いたまま、答えてくれなくて。
だけどその唇は段々尖っていって。
そりゃそうだ。
Aが知らない僕の情報を、 その他大勢が知ってるとか。
僕らはそういうのに慣れてしまってるけど…。
Aはさぞや気分が悪かったに違いない。
いったいどうやって謝ればいいだろうって、
思ってると
「今、私が本気で怒ったと思ってビビったでしょ〜〜？？
チャンソン、私怒らすと怖いって知ってるもんね？
顔、超ひきつってるww」
もう我慢できないって感じで顔をあげて。
クスクス笑いながら、僕の頬をツンツンしてきたA。
「…え？ 怒ってないの…？」
「ぜ〜んぜん気にしてないって言ったらウソになるけど。
たぶんそんな感じだろうな〜って思ってたし。
チャンソンみたいな人とこれから長く付き合っていくなら、
これくらいのことでいちいち凹んでられないから。
たくましくならないとね」
そう言ってガッツポーズをつくるAは、
昨夜とは打って変わって明るく、
なにか吹っ切れたような笑顔だった。
なにがAをこんなに前向きにしたのかはわからないけど。
「だけど、本気で頭に来くることあったら、
また前みたいに喚き散らして暴れるからね」って。
僕の胸に猫パンチみたいな拳をぶつけてきたAはかわいくて、
頼もしくて。
僕は笑いながら大きく頷いた。
「うん。覚悟しとくよ」
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作者名：yukichansung | 作成日時：2015年9月7日 1時
