9話 ろっきー ページ10
「終わりなのだ」
息一つ切れた様子も見せないそいつに無性に腹が立った。いや、腹が立ったのは己にだ。勝手に侮って、勝手に焦って、負けた。人よりいくらかは先にいると思っていた。
でも、上には上がいた。俺より小さな体に細い手足。筋肉量だって多くはないだろう。“個性”で腕力を上げていたとはいえ、同い年の、しかも女に負けたのはいくらかショックだった。
建物から立ち去る裏界は、一度もこちらを見ることはなかった。まるで興味はないとでも言いたげな態度。
「クソがァ……」
うなるように爆豪が呟く。あいつは俺よりも悔しいだろう。“個性”を使われなかった。腹と顎に一発ずつ。裏界は余計な破壊を好まないようにも見えた。
教室では反省会をしているようだったけど、裏界はいなかった。もう帰ったのだろうか。じゃあ用はない、と昇降口に向かうとちょうど茶色の頭が見えた。
「あ、紅白くん」
「……轟だ」
「じゃあろっきー」
あだ名で呼ばれるのは初めてだった。おどけたような口調とさっき見せつけられた圧倒的な実力が咄嗟に噛み合わなくて、場には沈黙が漂った。
「反省会参加しなかったのだ？」
「お前が言うのか」
「あはは。キミが言ったことと同じなのだ。レベルが違いすぎるからあんまり参加する意味ないのだ」
口調は笑っていたけれど、何を考えているのかわからない目をしていた。怒っているような、笑っているような、泣き出す一歩手前のような。喜怒哀楽全てを一度溶かして固めたような、作り物にも似た顔だった。
「……お前、なんで“個性”を使わなかった」
「そっくりそのままお返しするのだ。なんで炎を使わなかったのだ？ 格上相手に出し惜しみしてたら普通に死ぬのだ」
「っ、それは」
「言いたくないことなのだ？」
見透かしたように飛んでくる声に、自分がまた焦っていたことに気がついた。こいつといるとどうも調子が狂う。心の蓋をこじ開けてくるようで一線の中に立ち入らない。
「……ああ」
「ならいいのだ。キミの信念にそこまで興味はないし、それに友人を待たせてる」
“興味はない”。話そうだなんて思ってなかったのに、そう突き放すように告げられた言葉は胸に刺さった。自分が被害者のように思うのはお門違いも甚だしいだろうけど、
「また明日」
お手本のような笑顔と共に投げかけられた未来に、どうしてか酷く安堵した。
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yui(プロフ) - ごまさん» ありがとうございます！ キャラ目線は結構考えて書いてるので、お褒めいただき嬉しいです！ (1月17日 16時) (
レス) id: e9850282aa (このIDを非表示/違反報告)
ごま - あっ…好きです。めっちゃ好きです。キャラ目線の書き方とか神ですか？とにかく好きです。推します。 (1月16日 21時) (レス) id: 9def695b19 (このIDを非表示/違反報告)
yui(プロフ) - まるさん» 私も書きながらときどき浮かんでます（笑）コメントありがとうございます！ 更新頑張ります！ (1月8日 13時) (レス) @page3 id: a2ad79a780 (このIDを非表示/違反報告)
まる - とても面白かったです！口調のおかげでどうしても緑のずんだが…… (1月8日 13時) (レス) @page7 id: b21609e0eb (このIDを非表示/違反報告)
yui(プロフ) - カフカさん» ありがとうございます！ 今作のポイントはズバリ夢主ちゃんなので、そう言っていただけて嬉しいです！ (1月6日 8時) (レス) id: a2ad79a780 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：yui | 作成日時：2024年1月5日 17時
