少女の独白 ページ2
何を間違えたんだろう。
今日はわたしにとって、完璧な一日だった。
完璧なまま、終わるはずだったのに。
いつものように早起きして、小学生の弟を起こし、簡単な朝食を用意した。父も母も夜遅くまで働いているものだから、朝はぐったりしていて家事どころではない。
中学に上がった頃から、家事のほとんどはわたしの役目だった。
それはいいのだ。今更、苦にはならない。
問題は、弟が目の下にクマを作っていたこと。
いつもは朝から元気なのに、悩みでもあるのだろうか。今日に限って、元気がなかった。
目玉焼きを食べながら、暗い顔をしてうつむいていた。まるで変なものでも見つけたかのように、お皿を凝視して。
耐えかねて問いただしたら、弟はこう呟いた。
「俺のサッカーボールがないんだ」
弟は身体を動かすのが好きで、毎日のように友達とボールを蹴っている。
そんなやんちゃな弟なので、蹴っているうちに失くしたのだろうと思った。
「他所の庭に入れてないよね?」
わたしは念を押した。
「迷惑をかけちゃ駄目だよ」
弟は黙って、首をふった。別人のように表情が暗い。
お気に入りのボールを失くしたのが、そんなにショックなのだろうか。
どこか変に思いながらも、わたしは気にせず登校した。
いつものように授業を受け、友達と話し、帰ろうとした。
その時、二つ目の異変が起こった。友達が騒ぎ出したのだ。
「ねえ、あれ……近づいてきてる」
それはサッカーボールだった。
わたしたちの正面に、数メートルほどの距離に、古びたサッカーボールが見えた。
坂道をゆっくりと転がって、こちらに近づいてくる。
それはいいのだ。ボールは転がるもの。今更、驚きもしない。
問題は、下から上に転がってくること。
人もいないのに、転がり続けていること。
わたしたちはそれから数十分間、なぜか追いかけてきたボールをまくために、逃げ回るはめになった。
今日も完璧なはずだった。
完璧な「日常」のはずだった。
間違えても、あんな非日常に迷い込むつもりはなかったのだ。
そういえば、一緒に逃げた友達は?
頭の中をふと、そんな疑問がかすめた。
どこで別れたのだろう?
疲れ果てているせいだろうか。記憶は曖昧でまとまりがなく、一切の現実味を失っていた。
ぼんやりとした意識の中で、わたしは携帯に手を伸ばした。
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ニワトリ | 作成日時:2016年10月22日 15時