【Fischer's】前途多難な恋だから * モトキ

寒い朝 * 01 ページ9

あの濃い１日から気づけばもう１週間。
相変わらずアパートの住人には殆ど出会さない。マサイくんもモトキくんもあれから全く会っていない。
勿論、あの日のお礼もまだ出来ていない。
そんな事を考えながら仕事の支度をして、玄関のドアを開ける。
11月にもなると朝は結構冷える。今日は仕込みからなので、朝が早い日。こんな日の服装は本当に困るのだ。帰りは夕方、今ほどは寒くない、あまり厚着をすると、電車の中は汗だくだ。まぁ、職場に着いたら着替えるのでOLみたいにお洒落な格好はしないのだけど。

「さむっ」

思わず声が出た。

モ「ふふっ」

聞こえてきた声の方を勢いよく見る。
そこにいたのはモトキくん。独り言を聞かれたかと思うとすごく恥ずかしくて顔が火照ってくる。

モ「おはよう、Aちゃん。朝早いんだね」
　「おはようっ、ございます！！！」
モ「これから、お仕事？」
　「あ、うん！モトキくんは？」
モ「じゃぁ、一緒だね。今日は少し遠くに撮影に行くんだ」

YouTuberって映像でお仕事してるんだもんね。大変だなぁ。
そんな会話をしていたら、お隣さんの扉が開いた。マサイくんが出てくるものと思って元気よく挨拶をしたのだが・・・

「マサイくん！おはよう！ご、ざい、ます」

出てきたのは、カメラを持った黒髪の見知らぬ人。でも良く見るとこの人何処かで・・・
間違って声をかけた恥ずかしさと、何だか見たことある目の前の人に固まってると、予想もしてなかった事に彼方から声をかけてくれた。

「おはようございます！あ、この前のお姉さん！」
「へ？」

この前の？やっぱり何処かで会っているらしい。彼を見ながら頭をフル回転させる。でもそれは直ぐに解決することになった。

「あーえっと、１週間くらい前の夜中にアパートの入り口で！何かすげー暗い表情だったから心配してたんすよ！」

１週間前と言うとあの濃い１日の・・・

「・・・あ！あの時のオラついた歩き方の人！！・・・って、ごっごめんなさい！」

初対面の時の印象(それもあまり良くない)をそのまま声に出してしまい慌てて口を抑え謝るも、時既に遅し。申し訳なく彼の方を見ると、モトキくんと一緒に大爆笑していた。

モ「オラついた歩き方って、ふふっ、そーだよね、シルクの歩き方怖いよねっ、あー面白い！」
シ「いやぁ、これと目付きで何度ヤンキーに絡まれたか！でも直んねーんだよなー、ははっ」

笑ってくれてる？気を使わせた？
Aはパニックの中あたまをフル回転させた。

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