あの夏が飽和する。【轟焦凍】 (ページ10)

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俺のクラスメイト、青井(あおい)Aは無個性だった

俺のいた中学では無個性はAだけ

俺は小学校が違い、中学一年の時に隣の席になって初めて出会った

なんでも小学校から虐められているらしく、あいつはいつも何かしら言われては手を出されていた

それでも学校を休んでいる姿は見たことなかったし、反撃もしなければ常に無表情だった

俺は、止められなかった

別に虐められるのが怖かったとかそういうのじゃない

止めても変わらないのを知っているからだ

無個性の差別は長年続いてきた社会差別だ

俺一人がやめろといったところで、現状が変わるわけがない

むしろ俺が止めてしまえば、Aはよりいじめられることになるだろう

Aも俺に助けてと言って来たことはなかった

「......なんで学校休まないんだ」

「そうだな
逃げてることになる、からかな」

いつもの公園でブランコを揺らしながらそう言ったその横顔は、夕日に照らされていた

今ならわかる

きっとあいつは、家にいたくなかったんだ

学校ならば休み時間さえ我慢すれば、授業中に手は出せない

そう考えれば、きっと家より学校の方がましだったのだろう

「我慢するなよ」

「うん、ありがとう」

そういって笑うあいつの横顔が辛そうだったのに、俺は気づけなかった