【ONEPIECE】Take Your Hurt【トラファルガー・ロー】 (ページ20)

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「なぁ」

昼食を終えて、皿洗いを済ませると、リビングのソファーでくつろいでいたローは、キッチンから手を拭きながら出てきたAに声をかけた。

「ん？どしたの？」

首を傾げてローに目を見やると、彼女の銀髪がはらりと肩の上で揺れた。
先ほどの疑問を口に出すのを渋っているローを見て、何かを悟ったのか、彼女は彼の隣にやってきて、ぽふんと腰かけた。

暫く黙ったままでいた彼を、彼女は気長に待っていた。
その優しさがどうしようもなく温かかった。そしてローはやっと口を開いた。

「その、お前は…知ってたのか、珀鉛病が鉛中毒だって」

「へっ、あれって感染症じゃないの？」

ローの言葉に目を見開いて驚く彼女に、今度はローが驚く。
知らなかった。彼女はあれを感染症だと思っていた人々の一人だったのだ。

じゃあなぜ、どうして彼女は

「…感染症だと思ってたんなら、なんでお前は、」

お互いに顔を合わせて見つめ合う。
無意識にやっていた所為で、意識すると急に恥じらいが生じてきて、不思議そうにこちらを見つめる焦げ茶色の瞳から、思わず目を逸らした。

「なんで、あの時、お前は…俺を遠ざけなかったんだ…？」

ローの言葉に合点がいったのか、彼女はんー、と考え込むようにして頤に手を添える。
どう言うべきか、なんといえば正しく伝わるか。

「今まで会ってきた奴らは…みんな俺を、避けたり、罵倒したりしてきた。
けどお前は、なんで…」

「…だって、よく知らなかったから、珀鉛病のこと」

彼女の答えはシンプルだった。

「なんにも知らないのに、勝手に決めつけて差別なんて、したくないよ。
根拠もない噂で誰かを傷つけるのは、私は嫌だから」

＿＿知らなかった、こんな人間がいるなんて。

「感染するかもしれないって、思わなかったのかよ」

「だって、凄く痛そうだったよ、あの時のロー。
そんなのほっとけないじゃん。
かかったらかかったでその時考えればいいし、実際かかんなかったから結果オーライ！」

にかっと笑った彼女の顔は、今は見られそうにない。誰かの言葉が、こんなにも心が軽くなるものだったなんて。

「やっぱ、お前…変な奴だな」

「へへへ～それほどでも～」

Aは鼻を指の背でこすって、照れくさそうに、だけどまんざらでもなさそうに笑った。
目尻をくしゃりと緩ませて細められた目は、やっぱり直視できなかった。