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一話:邂逅 ページ1

ザクザクと雪を踏みしめる音は寒々しい空気の中に溶け込んで消えていく。
しっかりと踏み込んで注意を払わなければ、足を取られて転びかねないほど分厚く降り積もった不香の花。
全天88星が所狭しと並ぶ_といってもすべて見えるわけではないのだが_群青の空を見上げれば、あたりに群生している針葉樹の隙間から少し欠けた月が覗く。


辺りを覆う銀世界と同化するように、
銀色の蓬髪を揺らしながら歩く少女が一人。
背負子(しょいこ)を背負い、短く白い吐息を断続的に吐く。

万全に着込んできたはずだったが、この凍てつく空気にさらされた顔だけは寒い。
襟巻(マフラー)では顔全体を覆いづらいうえ、呼吸がしづらくなる為、必然的に顔は是非もなく外に出すことになる。


生憎と今は「寒いね」と呟いて返事を返してくれる相手もいない。
といってもあの同居人がそんな直接的な優しい言葉をかけてくれる日なんて、一年に数えるならば片手があればお釣りがくる。

しかしながら、あと数日後にやってくるその同居人の誕生日に、今、背負子に入っている珍しい部品を渡せば、きっと不器用に喜んでくれるだろうと、
そのしわが蓄えられた顔を想像すれば、不思議と足取りも軽くなる。
苦労して長ったらしいこの道を通り、隣町にまで買い出しに行った甲斐があるというものだ。


表情筋が緩み、にやにやと口角が上がっていく顔を抑えながら、帰り道を歩く。



時折吹く向かい風に身震いをしながらも、やっと見えてきた町の光に安堵する。
手袋をキュッと引っ張り、外套を体に引き寄せて、少しだけ足早に歩いた。



町の入り口付近に辿り着き、すっかり遅くなってしまって大目玉をくらわされやしないかと、肝を冷やしながら自分の家がある島の外れの方へと進路を変える。
すると


「あ、ちょっと!」



町の入り口の門の方からそんな声が聞こえて、思わず少女は振り返った。
見れば見慣れた「Pleasure Town」の文字が書かれた門の方から、人影が一つ、こちらに向かって走ってきていた。
近づくにつれて町の明かりに鮮明に輪郭を映し出されるその人物を見れば、目深に被っている帽子のせいでわかりづらかったが、背格好が自分と同じくらいの少年であった。

彼は少女を見た途端、怯えたような顔をして直ぐに別の方向へと走り去っていってしまった。雪が降り積もっている中よくもまああんなに素早く走れるものだ、なんて感心している場合ではない。
彼は何故逃げていったのだろうか。

・→



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弥生(プロフ) - あ ま ね 。さん» ありがとうございます!頑張ります…!! (2020年12月2日 16時) (レス) id: 02a09e0452 (このIDを非表示/違反報告)
あ ま ね 。(プロフ) - とても面白いです!!更新楽しみにしてます!! (2020年12月1日 6時) (レス) id: 36c644cd03 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:弥生 | 作成日時:2020年10月12日 2時

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