[オリジナル]別れの時まで[恋愛] (ページ22)

今日:7 hit、昨日:0 hit、合計:12,307 hit

第21話ページ22

「私のせいで、母さんは死んだ」

この話をする時は、なるべく淡々と、他人事のように話すようにしている。

そうでもしないと、話さない気がするから。

「ごめん、こんな暗い話して」

「いや、俺のもだいぶ暗いから大丈夫」

「墓参りとかは？」

「毎年父さんがしてる」
「行かねぇの？」

「･･･行けないよ」

「･･･そっか」

沈黙。

というか、本来の目的を完全に見失っている。

自分の身の上話をしに、わざわざ悠の部屋に来たわけじゃない。

「でもさ、もういいんじゃね？」

「え？」

「いやさ、その時Aまだガキだろ？そういうこと言っちゃったのは悪いけどさ、そろそろ墓くらい行ってもいいと思うぜ」

「･･･そうかな」

「そりゃ、母親の事忘れちゃダメだけどさ、もう許されていいんじゃね？」

相変わらず無神経で、ぶっきらぼう。

優しいんだかどうなんだか。

「･･･ありがとう」

心なしか、救われた気がする。

「荷物、車に積んどきました」

「ああ、ありがとう」

伊取さんの車に荷物を詰め込んで、明日の準備は終わり。

これでやっと眠るとこができる。

「じゃあ、失礼します」

「ああ」

それにしても、娘はあんなうるさい(って言ったら怒られるか)のに、父親はこんな寡黙ってすげぇな。

･･･母親に似たのか。

「悠君」

「え、あ、はい」

まさか伊取さんにそう呼ばれるとは思わなかった。

何をするかわからない所は親子共通、か。

「本当に何も言わなくていいのか？」

「･･･言いましたよ、“アメリカの病院”って」

「君は、本当にそれで」

「いいんです」

なんでこの親子は、痛いところを的確につくのが上手いんだ。

「あいつ泣かせらんないですから」

「若いのに、紳士なんだな」

そう言って伊取さんは微笑む。

この人の人間らしいところを初めて見た。

「君になら、Aを任せられると思っていたのだがな」

「･･･冗談よしてください」

「そうかな、てっきり私は、君も悠の事を少なからず思っていると考えていたのだが」

「怖い事言わないでくださいよ。それにそれじゃ、Aが報われませんよ」

「そうか」

この人は酔っているのだろうか。いつもより口数が多い。

「悠くん」

「いつでも帰っておいで。ここは君の家だ」

1度聞いた言葉だ。

悠が入院した時に言われた言葉だった。

「ありがとうございます」