[オリジナル]別れの時まで[恋愛] (ページ20)

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第19話ページ20

「アタシあんたのこと嫌いなの」

唐突に台道美和子がそう告げる。

「は･･･」
「あんたもアタシのこと嫌いでしょ」

“だから、あんたが一番嫌がることを話してやるよ”

最終列車にギリギリ乗り込んで、雪見町まで帰る。

電車の中はほぼ無人で、乗っているのは酔っ払いか、仕事に疲れた企業戦士くらいだ。

規則正しいリズムに揺られながら、悠の頭は台道美和子の言葉を思い出している。

『夢世子ね、今は更生施設にいるんだよ』

『段々意識も戻ってきてる。アンタのことも後悔してるって』

『ねぇ、会いに行ってやってよ。あいつ、いっつも私が行った時に“悠は”って聞くんだよ』

台道美和子が語ったことは本当なのかもしれない。

あいつ、あの女、即ち空井夢世子。

彼女は悠の母親だった。少なくとも昔は。

酷いクスリ中毒だった夢世子だが、悠の事を育ててはくれていた。

悠が産まれてからはクスリの使用回数も減っていて、自分の力で立ち直ろうとしていたのかもしれない。

が、既にクスリに侵されていた夢世子の脳は、すんなりその事を忘れてはくれなかった。

小学生のころ、悠が家に帰ると、明らかにいつもと様子の違う夢世子がいた。

後でわかったことだが、クスリの大量摂取で幻覚を見ていたらしい。

夢世子は『ばけもの、ばけもの、あっち行け』と狂ったように喚き散らし、悠を灰皿で殴りつけた。

何度も何度も繰り返し、殴りつけた。

騒ぎを聞きつけた隣人が警察と救急車をよび、悠は一命を取り留めることが出来た。

が、夢世子は既に自我を失っており、更生施設送りになった。
悠は施設に送られ、その後伊取家に引き取られた。

その後、この病気が発覚した。

「雪見町ー、雪見町」

駅員の声で目が覚めた。いつの間にか眠っていたらしい。

明後日は遂に出発の日だ。

立ち止まって町を眺めていると、雪が降ってきた。

この町ともお別れだ。

肩に積もった雪を払い、悠は病院へと足を運んだ。