[オリジナル]別れの時まで[恋愛] (ページ19)

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第18話ページ19

雪見町の夜は暗い。

町の約9割が住宅地で、それ以外は商店街、公共施設などが占めている。

当然、繁華街や娯楽施設などというものは存在しない。

そう言えば、昔Aが「カラオケに行きたい」と急に言い出して困ったことがあったことを悠は思い出した。

あの時は確か、伊取さんがわざわざ駅七つ分も離れた大きな街に連れて行ってくれたんだっけな。

そんな昔の事を思い出したのは、あの時と同じ場所にいるからだろうか。

繁華街の裏の裏の裏の裏。

その店はひっそりと、表の世界とは程遠い雰囲気の中にあった。

軋むドアを開けると、タバコの臭いが鼻の奥を通り抜ける。

どう見ても気質(かたぎ)には見えない男たちがこちらを振り向く。

体に突き刺さる様な視線を無視して奥へ行くと、1人の女が待っている。

台道(だいとう)美和子。あの女の友人。そして悠の母親役。

この下品な水商売の女がどんな手を使って『清楚なマダム』に化けたのかは知りたくもなかったが、とにかくこの女の変装は完璧だった。

「･･････あの後、Aに見られてないだろうな」

「見られてないわよ。そもそも、あのお嬢さまがこんな裏の裏の裏まで来るわけないでしょう」

この女と話すと、いつも悠はイライラした。

その原因は、話し方、態度見た目があの女にソックリだからだということは既に悠は把握していて、なるべく話さない方がいいことも分かっている。

それなのに今悠から台道美和子を訪ねる理由は一つだ。

「謝礼だ」

そう言って封筒を投げつける。中身は１０万円とほどだ。

「毎度」

台道美和子は中身を確認してカウンターの引き出しの中にしまった。

これでもうこの場に用はない。後はAに見られず雪見町に帰るだけだ。

「ねぇ」

振り向くと、台道美和子がこちらを見ている。

こんなことは今まで無かった。

「あんたさ、夢世子夢世子(むよこ)のこと恨むのは分かるけど、たまには会いに･･････」
「黙れ」

「俺にあの女の話はするな」

店の誰もが口を閉じた。悠が台道美和子を怒鳴りつけたからだ。

高校3年の男子とは思えない、低く、鋭い声だった。

「･･･やっぱりあんたアイツに似てるよ。気の短いところがね」

「･･････」

悠の母親は酷いクスリ中毒で、彼がお腹の中にいる時もクスリを摂取していた。

だから、悠は自分の病気の原因は母親だと思っていた。