正義執行 ページ1
Ｚ市に遍く闇の鼓動に、大地そのものがおののくようだった。それをよしと言わんばかりに闇は膨張していった。
『Ｚ市より中継です！ いまここ、Ｚ市に、災害レベル『鬼』の怪人が出現しました！ 近隣住民の方々は――あー、こりゃもうだみだ……』
テレビ局が報じた途端、Ｚ市は混沌とした。
世界が終わるのだ――と。
そんなニュースを、一人の男が口をだらしなく開きながら眺めていた。そいつはハゲていた。
「あ……いまこいつ俺のお墨付きの雑貨屋潰した……」ハゲが言った。
「先生、先生がいつも行ってるスーパーのチラシが郵便受けに……先生？」別の声が訊いた。
「せめて、せめてスーパーだけは守らねば……明日がセールの日なんだ……」
そういうとハゲは純白のマントを翻し、玄関で赤いブーツを履き、静かに扉を開いた……。
正義 執行
「キャハハハ！ みんな潰れておしまい！ ワクチンマンの敵よ！」
全身が真っ赤な怪人が、Ｚ市を破滅へ追い込んでいた。頭にはなんか先っちょが丸くなってる触手がついていた。背丈は人二人分くらいで、筋肉隆々の女の怪人だ。赤い怪人が、体のわりに甲高い声で叫んだ。
「どいつもこいつも雑魚ばっか！ ワクチンマンは勇敢に戦ったのに……」
怒り心頭といった様子で赤い怪人は破壊を続けた。
人々は、ドーム状の非難シェルターの中で祈った。誰か、この世界を救ってくれ――
――ヒーローよ、助けてくれ――
「ちょっと待て」
赤い怪人の近くで、何かが言った。
「ん？誰よアンタ……」赤い怪人が言うと、何かがにやっと笑い、腕をえらそうに組んで名乗り出る――
「サイタマだ。趣味…じゃなくて、プロでヒーローをやっている者だ」
赤い怪人は目を疑った。目の前にいる、なんとかっていうのが、ヒーロー？ ハゲていて、赤いブーツと手袋を身につけ、ダサい純白のマントをまとったこいつが、ヒーロー？
「あんた――弱そうね」
赤い怪人の口からついて出た言葉だった。それを聞いた、サイタマは――
――鼻くそをほじった。
「あー、うん。もう言われ飽きた。」サイタマが言った。「いいからかかって来いよ、でかいたくあん。俺から行くぞ？」
「貴様……」赤い怪人が言った。
「私の恐ろしさを知らないみたいね――？」
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作者名：赤林タケジ | 作成日時：2015年10月2日 17時
