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館内から出ると、
外はすでに薄暗くなっていた。
私は左腕の袖をめくって、
隠れていた文字盤を見つめる。
気が付けば6時。
代行終了の時間だった。
「えーっとそれじゃあ、
代金は後程お知らせした口座に…」
彼は腕時計を見ながら、
さっきとは違う声色で代金について話す。
こんなにも、さっぱりと終わってしまうものだと、
所詮作り物だった友情だと実感する。
一日の終わりをこんなに寂しいと感じたのは、
いつぶりだろうか。
「森野さん?」
「…あの」
「何でしょう」
「これって…また頼めば有岡さんが来て下さるんですか?」
「あー…ランダムなんで分からないです。
正直、その辺のシステムは俺も知らされてなくて」
ごめんなさい、
有岡さんは愛想笑いを浮かべながら言った。
大丈夫です、
私も対応するように建前の返事をした。
「今日一日…楽しかったですか?」
彼は、腕時計を見つめながら呟く。
おそらく、私に向けて言ったものだろう。
「楽しかった…ですけど、
全部作り物だってわかった瞬間、そうだよね、って。
こんな友達出来ないよなぁ…って。」
思ったことを全部口にしてから、
何故自分はこんなことを言ってしまったんだろうと後悔する。
相手は、その「作り物」なのに。
「…実は俺自身、あんまりこの仕事に共感持てないんすよね。
なんつーか、人だまして金取ってる感じがして。詐欺師みたいじゃないですか」
「…へ?」
「だったらなんでこんな仕事してんだよ、って話になるんですけど、
俺でも分かんないんです、なんでこんなものが存在するのか…」
暫く無言が続く。
彼の口から、そんな言葉が出るとは思ってもいなかった。
彼はふと思い出したように、
腕時計を見つめなおす。
「やっば…森野さん、今日は一日当社のサービスをご利用いただきありがとうございました。
またのご利用もお願いします」
マニュアル通り、いや、マニュアルよりも少し早いくらいのスピードで、
彼は慣れた口調で一息に話した。
それから踵を返す彼を、
私は見ていた。
少しずつ、遠くなっていく背中。
もう二度と、会えなくなるような感覚に襲われる。
「有岡さん!」
「…?」
「す、す、すきですっ!」
森野A、人生初の告白は、
二度と会えないかもしれない彼に向けてのものでした。
continue…?
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