【短編】白夜鉄道回送録 (ページ8)

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昼食を食べ終わると、
私と彼は映画を見に行った。

好きな声優が初主演を務める、
アニメ映画だ。

「チケット取ってきたよー」

と、二枚のチケットをひらひらと揺らしながら、
ポップコーン片手に戻ってきた彼は、
隣に座ると、映画も始まっていないのにポップコーンに手を付ける。

「まだ始まってないし、劇場にも入ってないし」

「いいじゃん、そんなけち臭いこと言わずにさ」

彼はそう言って、ポップコーンを食べるスピードを速める。
横から見ると、リスにしか見えなかった。

劇場アナウンスが店内に響き、
人の波に押されながら私と彼は席に着く。

「楽しみだね」

彼はポップコーンを置くと、
隣の私に話しかけた。

暗闇は、彼をまた違った世界へと引き込んだ。

映画が始まると、
私はその映像美に、素敵な声に夢中になって、
隣で寝ている彼の顔を見ることはできなかった。

…男女の友情はあり得るのか。

彼を見て、私は思う。

前で述べたように地味子で恋愛経験ゼロ、
おまけに異性に対する耐性もそれほど強くない私に、
男女の友情という概念はこれっぽっちも存在しない。

だから今の状況が違和感でならない。

周りから見て、
私と彼は友達に見えているんだろうか。

もし、恋人として見られているのならば…

「A、もう行くよ」

「あぁ…うん」

そんなことを考えてるうちに映画はいつの間にか終わっていて、
聞きたかったあのイケメンボイスも、
半分ぐらいしか耳に残っていなかった。