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屋上のドアは冷気でゴムが固まり、開きづらくなっていた。
上を見上げると今にも落ちてきそうなくらい、隕石の輪郭がはっきりと見えた。
俺らは屋上の中央、黒い台へ向かうと、
その筒状のものを囲むように立った。
それは冷たくて、暗くて、重くて。
いつか漫画で見た、球体の黒い機械のようだった。
「全国のお米食べたかったー！」
伊野尾くんが突然、真っ暗な空に向かって叫んだ。
その声は隕石にぶつかって跳ね返って、俺たちの耳に届いた。
「…なんだよいきなり」
「死ぬまでにやってみたかったこと。
もう叶わないから、隕石に言ってやってんの」
光くんは伊野尾くんをキョトンとした目で見つめた後、
まるで風を浴びるかのように、空を見上げた。
「武道館でライブしたーい！」
「全国の城跡回りたーい！」
「うわ、薮めっちゃ地味」
「お前の武道館よりはマシだろ」
薮くんと光くんは、二人でいつもみたいに、
肩を突きあって笑った。
「俺も！オムライスが食べたい！ちょー高いヤツ！」
「…子供だな」
「大ちゃん、って感じ」
「おい、なんだよソレ！」
有岡くんは頬をかわいく膨らませて言った後、
隣にいる俺のほうを向いた。
「たかきは？死ぬまでにしたいこと、何？」
俺を見つめる、４人の瞳が、
願いも将来も何もなかった俺に死ぬまでやりたいことを教えてくれた。
「…死ぬまでしたいことっていうか、
…もっとみんなと一緒に居たかったな…」
しん、と、冷たい空気が頬を切る。
凍るような静寂が、俺らを包み込んだ。
「…ばーか」
「…？」
「誰がいつ離れるって言ったんだよ」
「光くん？」
光くんがにっ、と八重歯を見せて笑うと同時に固いゴムが音を立てて動く。
ドアの前には、懐中電灯を持った教師が数人。
俺らに爆弾を打ち上げないよう、必死に説得する。
だがそんなの、もう遅い。
俺らはその黒い球体にマッチで火をつける。
燃える火が火薬に到達するまで10秒。
俺らは筒から離れて、様子を見る。
最後のカウントとともに、教師が身を屈める。
俺らは立ったまま、隕石の見える空を見上げた。
バァン。
目線の先には、色とりどりの光。
鮮やかな花火が、空を染めた。
「みんな、見てくれたかな」
「向こう言ったら、俺らがやったって言おうぜ」
「そしたら有名人じゃん」
「さいこーだね！」
「…俺らが生きた証」
筒を囲んで、皆で手を繋ぐ。
隕石が光を放って近づいてきた。
fin
終わり
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