・ ページ13
*
閉めっぱなしだった寝室は、
湿気と熱気の混じった、
じめったい空気で満たされていた。
カーテンの隙間から光が覗き込み、
俺は目を覚ました。
「…おはよー」
リビングに行って、
姿の見えなあいつに声をかける。
いつもなら「おはよー薮」とか言って、
眠そうに目をこすりながら、
きのこヘアーの寝癖を抑えて俺の前に現れるはずだが、
ほわっとした声も、
眠そうに目をこする仕草も、
特徴的なきのこヘアーも見えなかった。
あいつは、俺の前に現れなかった。
最初の数日は気分だと思っていたが、
ここ数日のあいつの様子からして、成仏したのだと、
数週間経った今、俺は思う。
あいつがいなくなった今、
少し静かになったこの部屋で、
俺はあることを思い立った。
__どうしてあいつは、死んだんだろう。
思い立ったら即行動するタイプ、
俺はあいつについて知るために、
近隣住民に聞いてみたり、不動産屋に聞いてみたりした。
再び家に戻ってきた頃には、
既に外は暗くなっていた。
名前は伊野尾慧。
年齢は生きていれば俺と同じ27歳。
伊野尾は数年間、ここに住んでいて、
近隣住民とも仲が良かった。
だが、そんな彼が死んだ理由を知る者は、
誰一人いなかった。
彼の死体は未だ見つかっておらず、
捜索願は出されているが、
彼がいなくなってから二年ほど経ったいまでも、
解決の糸口が見出せない。
ただ俺は、一つ心当たりがあった。
彼の幽霊としての状態。
体に傷を付けずに死んだことを意味する。
それから幽霊というものは、
自分が成仏しきれずこの世に彷徨っているのが普通だ。
だとしたら、彼は何かしら未練を残していた。
俺はすべての点が繋がると、
マンション裏の小さな空き地に、
スコップで土を掘っていた。
前々から引っかかってはいた。
周りが土と意思しかない空き地で、
ただ1箇所、不自然に草が生えていたことを。
俺はその草のあたりを、無我夢中で掘り下げる。
その時感じた、スコップになにかが当たる感触。
俺は手でそのあたりを探ると、
そこには人のものと思われる手の骨があった。
伊野尾は薬を嗅がされるか何かして、
誰かに生きたまま埋められた。
体も自分の存在も見出せないままで、
成仏することはできなかったんだろう。
それでも彼が成仏したのは、
もう、思い残すことはないと感じたからだろう。
彼と過ごした日々はもう、帰ってこない。
けれど俺はきっと、彼のことを忘れない。
fin
11人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ