【短編】白夜鉄道回送録 (ページ12)

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仕事から戻ると、
玄関に光が漏れていた。

一瞬消し忘れとも考えたが、
その正体はすぐにわかった。

「あ、薮、おかえりー」

最近こいつは、
今まで以上に俺の前に現れるようになった。

そしてどこで知ったのか、
俺のことを「薮」と苗字で呼ぶようになった。

「薮、今日コンビニ飯か」

「仕方ないだろ、料理できないし、時間もないし」

「…あっそ。若いうちに自炊くらいできるようにしておかないと、
これから先…」

そいつは、そこで口を閉じた。
俺はそのことに触れてはいけない気がして、
場を取り繕うように話題を変えた。

「そういやお前、最近影薄くなったな」

「えーそうかな？」

と、言うよりも、彼そのものが薄くなっているように感じる。
すでに息をしていないこいつに、影などあるはずがない。

まるで、このまま消えて行きそうな…

「まぁ、俺が消えてもさ、
一緒に暮らしたことは忘れんなよー」

「お前みたいな奴との同居生活なんか、
忘れたくても忘れられないから」

「それ、褒めてるの？貶してるの？」

「貶してる」

えー、と言いながらもそいつの顔は、
満面の笑みだった。

この生活は、いつまで続くのだろうか。
もしもこいつが俺の前からいなくなった時、
俺はどうするのだろうか。

そんな考えも、
鼻にかかったようなそいつの声で、
ぷつっ、と途切れた。