【刀剣乱舞】人間無骨

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迷いながらも之定部屋にたどり着けば、探検に見送ってくれた我が実兄は姿を消していた。

代わりにどこかから流れてくるいい香りが部屋を満たしている。障子から覗く空は濃紺色に染まりつつあった。あと半刻(三十分)もすれば夕餉の時間だろう。

部屋には歌仙のものと思われる硯と筆、そして歌を書くための裏返しとなった短冊。読んで欲しくはないのだろう。

細川三斎も嗜んだ芸事は歌仙にもよく反映されている。それは片付けをしないところも例外ではない。

仕方あるまい。兄妹となったのならば兄のために片付けの一つや二つはしてやらなければ。

硯と筆をちり紙で拭き、細工のされている上品な箱へと片す。

後は裏返しとなった短冊。読んだとなれば、おそらく兄の慣習には反すことになり、『雅じゃない！』とでも言いそうだが、片付けの褒美とでもしよう。そう思いAはそっと短冊を裏返した。

達筆な筆文字で書かれた『海色の〜』から始まる短歌。古風な言葉に技法が施されているものだが、どちらかといえば理系なAにはさっぱり意味が分からず、元ある場所にそっとまた裏返して置いた。

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