第10話-3 ページ40
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「俺見てたんだけど、お前が乗って移動してた鳥いるじゃん？そうそう、今お前の手にいるやつ。なんで持久走でもそいつ使わなかったんだ？」
そうAに尋ねたのは、赤い髪を逆立てたギザ歯が特徴的な男子だ。
「切島、お前よ」
「あ、ワリ」
上鳴が不機嫌そうに切島の肘を押し退ける。切島と呼ばれたその男子はすんなり腕をどかすと、再びAに向き直った。
「えーっと、切島くん？この子…小鷹はね、たしかにスピードは出るんだけど、旋回とか、細かい動きが苦手なんだ。今回の持久走は楕円状のコースを周回するものだったから、小鷹だともしかして回りきれなくて危険かなって思って」
Aはそう言うと、「でも頼りになるんだよ」と付け足して小鷹の頭を数度撫でた。そして再び切島の顔を見上げる。
「わたしはAA。よかったら下の名前を聞いてもいいかな」
「あー、すまん。俺は切島鋭次郎。これからよろしくな！」
切島はニッと笑ってAに手を差し伸べた。Aも微笑んでその手を握る──と同時に、「えっ！？」と声をあげてしまった。
「ハハ、驚いたか？これ俺の個性、硬化。」
切島は悪戯っぽく笑うとAの前に腕を掲げてみせた。腕に現れたゴツゴツとした凹凸に、岩のようだと感嘆する。Aはまたはあーと大きく息を吐いた。
「すごいねえ、すごい強そう」
「だろ？」
Aの単純な感想にも、にしし、と切島は歯を見せて笑った。その場の誰もが気付かなかったが、彼の耳はほんの少し赤くなっている。
「ハイ！ハイ！オレ峰田実！個性『もぎもぎ』！」
すると人混みの中からズボッと押しのけるように峰田が現れた。そして髪の毛を千切ってAに差し出す。
「峰田くんは知ってるよぉ、隣の席だし朝自己紹介したでしょ」
「クッ…」
Aは苦笑いだ。峰田は悔しそうに下を向くと、Aが受け取らなかったもぎもぎボールを頭に戻した。彼のボールは一度触れると離れない。もしあのボールを受け取っていたら…Aは考えるのをやめた。
突然、ピーッと軽い機械音がする。思わず顔を上げて周囲を見渡せば、もさもさ頭の少年が息を切らしながらゴールラインに立ち止まっていた。どうやら彼が最後の一人で、先程の機械音は持久走の終了を知らせるものだったようだ。
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作者名：いわき | 作成日時：2022年10月13日 1時
