第6話-2 ページ23
＊
(1-A、1-A…あった！)
一方、B組の教室を飛び出したAは先ほどの反省を活かして、壁全体を見ながら校内を歩いていた。当然といえば当然かもしれないが、A組の教室はB組の教室の一つ隣にあった。
今度こそ、とAは深呼吸をして扉を引いた。
教室には既に二人の人影があった。
(あっ…！)
うち一人は見覚えがある。実技試験の説明会で凛々しく質問をした眼鏡の人だ。もう一人は黒い髪を一つに束ねた、切れ長な目が印象的な美人だった。
「はじめまして！」
Aは二人になるべく元気に、明るい笑顔を向ける。実のところ、緊張で心臓はうるさいくらいだ。でも、それを悟られてはいけない。自分は、"あの子"のようなヒーローになるのだから。
「はじめまして、俺は飯田天哉。よろしく頼む！」
「私は八百万百といいます。」
飯田は相変わらずはきはきとよく通る声をしている。八百万が「三年間、よろしくお願いしますわ」と微笑んだことに、Aもほっと頬の筋肉が緩んだ。
「わたしはAA。飯田くん、八百万さん、よろしくね」
今度は心からの自然な笑顔を、Aは二人に向けた。
「えーっと、座席表は…」
そう言って黒板に目をやるも、そこにプリントはない。
「あれっ？」
「座席表なら教卓の上だ」
飯田に言われ、教卓を見るとプリントが一枚置いてある。しかし、プリントは斜めに置かれていて、乱雑に放られているように見えた。Aは自分の名前を探しながら、プリントをぴしっと直す。
「A、A…あっ！八百万さんの斜め前だ！」
「まあ！」
Aは自分の名前を指差し、声を弾ませた。つられて八百万も嬉しそうな声をあげた。
Aは早速その席に向かう。えへへ、と笑みをこぼした後、二人は黙ってしまった。
お互いに初対面の三人だ。話題も見つからなければ、距離感もわからない。気まずい沈黙が流れる中、Aはぐっと唇を噛んだ。
(こういうとき、愛佳なら…)
Aはぱっと笑顔になると片手を頭の後ろに回して、おどけてみせた。
「実はね、さっき教室間違えちゃったんだ」
＊
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作者名：いわき | 作成日時：2022年10月13日 1時
