第5話-3 ページ20
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「黒板の座席表、見なかったのかい」
「座席表…？」
Aが黒板に目をやれば、確かにプリントが一枚貼ってある。なぜ初めて入ってきたときに気付かなかったのだろう。
「ご、ごめんね！気付かなかった」
「まったく…」
Aはその不思議な感覚を頭の隅に追いやり、慌てて鞄を持って座席表を見に行った。
「…あれ？」
しかし、座席表を隅から隅まで見ても、自分の苗字を見つけることができなかった。
「…まさか、クラスを間違えてるんじゃないだろうね」
「クラス…？」
「扉に大きく書いてあっただろう」
Aはとととっと教室の外に出ると、一度ドアを閉めた。自分を縦に三人並べられるんじゃないかというくらい巨大なドアには、でかでかと1-Bの文字があった。大きすぎて、文字があることにも気が付かなかった。
「あっ…！」
Aは慌ててファイルから自分の入学書類の控えを取り出す。そこには「1-A」と書かれていた。
「わたし、クラス間違えてたみたい…！」
「そうかい。そんなに視野が狭いと初日から不安だね」
その男子は嫌味を口にした。けれど、なぜか彼は訝しむような目でAを見ている。
「えっと、迷惑かけてごめんね。わたし自分のクラス探しに行くね。またね！」
Aは鞄を抱えると、困り眉で笑って踵を返した。しかし、それと同時に後ろでガタンと物音がする。振り向くと、男子生徒がその眠たげな目を思い切り見開いて、こちらを見つめていた。
「……A、さん…？」
「えっ」
思わずAは小さく声を上げる。この人に自分の名前は伝えていないし、座席表にも自分の苗字はなかった。自然と、じっと相手の顔を見つめてしまう。驚愕に染められたその表情を見つめていると、フッと頭の中で記憶と重なった。
「…あっ、物間くん！？小学生のときクラス一緒だった…」
「そう！覚えててくれたんだね…！」
ぱあ、と物間の顔が明るくなる。頬にほんのり赤みが差し、眠たげな垂れ目が見開かれた。
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作者名：いわき | 作成日時：2022年10月13日 1時
