44 賽は投げられた ページ48
まさか、桜はこの魔界には存在しない…？
いやそんなはずはない！施設育ちの魔界の常識に疎い入間でさえ知っていたというのに……。
あ"っ…もしかしてその実験施設での機密情報だったり？希少価値が高すぎて、桜の存在自体が隠蔽されてるとか？
｢僕の言っている意味、優秀な君ならわかるでしょ？｣
尋問ですかｸｫﾚﾊ？！？！えっ豚箱にぶち込まれる？！どうしよう！？
｢…あの木は、遠い昔に見たことがあったんです。それだけです｣
嘘は吐くべきではない。絶対に足がつくから。
もし昔見た本に載ってたとか言ってみろ。家中ひっくり返されるかもしれないし、記憶覗かれたりするかもしれない。
｢昔っていつ？｣
｢正確な数字はなんとも｣
｢名前も知ってたんでしょ？サクラだっけ。君がつけた訳じゃないよね｣
｢そういう名前なので｣
｢誰かから聞いたのかな｣
｢それもよく覚えていません｣
どうどう。そんながっつかないでくださいよ〜、ね？ね？俺の心臓が持たないので。
バラム先生は少し考え込むと、違う話をし始める。
｢僕の家系能力『
なんだよそのチート能力は？！
｢どうして本当のこと言ってくれないの？｣
｢言えば私はどこかへと連れていかれるのでしょう？｣
｢…そんなことしないよ。大丈夫、君が思うような悪いことにはしないさ。ただ気になっただけだから｣
嘘つけ！完全に人を油断させる常套句だ。口ではなんとでも言える。
｢私は、私のせいで家族や友人に迷惑をかけるのが嫌いです。私が話す内容によって、そうなる可能性があるのなら、口を噤みます｣
もしも家に探りに来たら。もしもジャズたちにしつこく話を聞きに行ったら。
俺がゲロることによって、誰かに被害が及ぶのなら俺は黙る。
俺の存在意義は、迷惑をかけることではないから。
｢……そっか。本当におおごとにするつもりはなかったんだけど、そこまで言われちゃ聞けないや｣
どうやらやっと引き下がってくれるようだ。
｢でもね、本当のことを言ってくれなかったという事実は残るけど、それでもいいんだね？｣
俺だけが害を被るのは問題ない。そりゃ面倒なのは嫌だけど、天秤にかけたら自分は軽いってだけ。
｢はい。構いません｣
これが吉と出るか凶と出るか。
そうして部屋を出る。冷えた魔茶を飲み干すことはついぞ無かった。
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作者名：南条 | 作成日時：2021年10月13日 21時
