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35 回顧 ページ38

作業をしながらスージー先生は、語り始める。

「昔、あなたのお母さんは自由奔放で、愛に生きる…それはやんちゃな生徒でした」

どうやら昔の母は今とほとんど変わらないようだ。

「あなたのお父さんとは、このバビルスで出会ったんですよ」
「……」
「その頃から一途でしたね、あの子は」
「……」
「一途で素直で何事も必死に取り組む。だから当時から心配だったんです。いつか壊れてしまわないかと」
「……」
「アスモデウスくん、お母さんは元気ですか?」
「……母は」

元気、と言えるのだろうか。
父のいないアスモデウス家を1人で引っ張りあげ、行き場の失くした愛を息子に注ぎ、その愛を今俺は受け止めかねている。

「それから、アスモデウスくんも。疲れたりしてないですか?」
「私、は」

母の立場を知っているし、自分の立場や振る舞い方も、知っているから、弱音なんて吐くべきではない。

俺は今はアスモデウスアリスだ。
そう、なってしまった。

「……大丈夫です。母には、少し気にかけておきます」
「…いつでも先生に相談や愚痴を言いに来ていいですからね」
「ありがとうございます」

全てを見抜かれているような感じがして、つい隠してしまった。

誰かを頼ることは昔から苦手だ。今まで自分の力で何とかしてきたし、前世もそうだった。

花壇に、激しく揺れる魔花を植え替える。
今はただ無心になって、作業に没頭したかった。



ひとつの区画を終える頃には、夕方になっていたので、今日はここで終いとなった。
スージー先生からはお礼と言って、1つお菓子をくれた。

正門までの道を1人歩く。夕方になると、いつも綺麗なラッパの音が聞こえてくる。
その音色の後は、運動部の掛け声が止み、帰宅の準備へと取り掛かる。

外に見える青春の光景は、俺が求めているものそのものだ。
仲間たちとの友情、恋愛、何かを乗り越える大冒険。それらは全て俺が前世の頃に読んでいた本の中だけの物語で、ずっと憧れていた世界。

どうして俺は前まで、一人だったんだろう。
バビルスに入ってからは順調な滑り出しだが、昔は本当に一人だった。学校でも、外でも。

俺だってそれなりに努力していた。
同級生に話しかけたり、協力してあげたり、集まりに参加してみたり。

途中までは上手くいっていた気がするのに、ある日を境に、それが上手くいかなくなった。
何かがあったはずなのに、どうしてか俺は覚えていない。なんでだったっけ。

――ああ、早く師団に入りたいなあ。

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作者名:南条 | 作成日時:2021年10月13日 21時

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