17 意外にも ページ18
｢俺、アンドロ・M・ジャズ。ジャズでいい。さっき財布を盗ったことの詫び…でもなんでもないけど、話ぐらいなら聞くぜ。というか俺も話したい｣
｢ああ、私はアスモデウス・アリスだ。アスモデウスと呼んでくれ。…ジャズはもう教科書受け取ったか？…そうか、なら一緒に行こう｣
なんだかお互いにシンパシーを感じて、少しお話することになった。これまで似たような境遇の人なんていなかったしな…
｢その…深いとこまで聞くつもりはないから。愚痴ぐらいでいいからな｣
この男、気の使える奴じゃん。好感度上がるわ。
｢……私の母は、私の事を女の子として育てたかったみたいでな。小さい頃から、やたらめったら女装させられた。それが…まあ、すごく嫌だった。それに母もよく仕事で家を開ける人だから、私へ向ける愛情が過保護というか度を超えていて…余計勢いが凄かった｣
｢おお…なるほどな。女装はきついな｣
｢私も母が嫌いな訳ではないから、断りずらくて…いつも受け入れていた。嫌がると、無理やり着せてきたこともあったしな…｣
｢それで…さっきの俺に反応した、と？｣
｢まあ、そうだな。普段からスキンシップが異常で、疲れている、というのもある｣
｢そうか…｣
｢別に母を困らせたい訳では無いし、私の家系は女の子が生まれやすいから仕方ない…と思っている｣
｢仕方ないで済ませるには、お前だいぶ参ってるんじゃねえーの」
｢……｣
実際母上に冷たい態度をとることもある。思春期のよくある反抗期と母上は思っているだろうが、俺の思春期はとうに通り過ぎてるんだよなあ。精神年齢成人してても、異常な愛情は堪えるもんだ。
｢じゃ、次は俺の番か｣
黙ってしまった俺を見かねて、ジャズが今度は話してくれた。
｢俺の兄はなあ、なまじ顔がいいからって平気で家に女の一人や二人…五人の時もあったか、を連れて来るんだが、目のやり場に困るぐらいそれはもう派手なお姉さんなわけ。その場で俺の恥ずかしい過去とか…下ネタ振ってきて俺の反応をダシに遊んでるのよ｣
思春期のピュアな男の子にとっては地獄だ。
｢俺がどれだけ言っても、性悪な兄貴は変わんねーの。俺ももう諦めかけてるけどさ。納得はしてねえ｣
｢そうか…家でも安心できないんだな｣
｢本当にそう！やっと女が帰ったと思ったら、ネチネチ俺の事馬鹿にした言い草で、ずっと煽ってくるし？！本当に厄介な兄貴だよ｣
家族に変な愛情を向けられるのも困ったものだ。
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作者名：南条 | 作成日時：2021年10月13日 21時
