叶うなら君と、また【赤葦京治】

ep-8 ページ10

号令を済ませると、購買に走る人、椅子を動かしてグループに固まる人、それぞれ自由に動き出した。


「あ、クロだ。ミーティングどこでやるの？」


顔を上げると、研磨の横の廊下と面する窓が開いていて、クロさんが身を乗り出している。


「やっぱり」


「？」


「ミーティングは業後に変更。AちゃんからLINE返ってこないから伝わってないかも、って思って来たけどビンゴ」


え、うそ。と思って携帯を立ちあげる。


新規通知が3件。


2件は公式アカウント、1件はクロさんから。


「携帯見てなかったです…すんません…」


「いや、いーのいーの。頼んでるのはこっちだし」


「それはそうですヨネ」


「切り替え早いな」



ははっと息だけで笑う。


「で？」


そのままサッシに頬杖をついてこっちを見てくる。


「Aちゃんは何を悩んでいるのかな？」



さっき書いた紙に目線が動かされる。


クロさんは目配りが効いて察しがいい。


食えない男ランキングがあったとしたら、音駒一。


研磨も言葉にすらしないけど、どうなの？ という目で見てくる。


野良猫が塀の上から見つめてくる時ってあるじゃん。そんな感じで。


「まぁ、スランプってとこです。決まんないんですよね、キモチよく」


「なるほど。ま、そーゆーときもあるよね」


うんうん、と演技ぶって頷くクロさん。


「1つ、黒尾センパイからアドバイス。オーバーワークするくらいなら一旦休んで、誰でもいいから話を聞いてもらえ」


「それが出来たらAは困ってない」


これは研磨。相変わらずケータイをいじりながら。


「う〜〜ん、善処します」


机にべたっと伏せた私の頭に飴を落としてクロさんはいなくなった。

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