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Side.M
ーーー気に食わなかったのだ、色々と。
そもそも、俺に差し出された手を 他の男が握ってAを攫ってったりだとか。
俺が助ける って言ってんのに、何故か俺が助け出してやるとか のたまう片桐とか。
俺らを見つけて走り出そうとしたAの腕を掴んだユタカって奴だとか。
その男を 普通に“ユタカ”って、名前で呼びやがるAとか、全部。
気に食わなくて、モヤモヤした。
そのモヤモヤの原因が目の前に居んのに、
今目の前のそいつは 俺としか一緒に居ないのに。
なんとなく、それでも。
他の野郎が ひっついてる気がして、むしゃくしゃしてならなかった。
どうやったら このむしゃくしゃが無くなるのかなんて 分かったもんじゃないが、とりあえず同じ扱いでもされりゃ 満足出来るのだろうかと とりあえず名前を呼べとAに言う。
散々 意味わかんない、と渋っていた彼女だったが、俺がムキになったら 話を聞かない、なんてことは 前々からの事だ。
呆れたようにため息ついた彼女は、じっと俺の目を見つめる。
｢ ……たかし ｣
｢ ｯ…… ｣
｢ 貴志 ｣
そいつの口から発せられたのは、
いつも母ちゃんや父ちゃんが言ってるそれと 変わりねぇはずなのに、何故か俺の心臓は痛いぐらいに高鳴って。
少しだけ恥ずかしそうに目を逸らして、
もう いいでしょ、と 言うAの頬に 手を添えて、無理やり此方を向かせる。
不思議そうな きょとんとした目で、三橋? と俺の行動を問うように 俺の名前を呼んだ彼女に、俺は そっと顔を近づける。
ーーーあわあわとした可愛らしい行動も、三橋ってば! と諌めるような声も、最後には 覚悟を決めたようにぎゅっと堅く閉じられた目も。
全てが俺の中の何かを煽って、
まるで 全身が心臓にでもなったかのように、ドクンドクンと煩い。
あと、数センチ。
Aとの距離が ゼロになろうとしていた、その瞬間だった。
｢ Aちゃん、貴志、リンゴ剥いたけど…あら? ｣
｢ あっ、あーー、っと!! み、三橋 余程眠かったのか寝ちゃったらしくて その〜〜〜〜
リンゴ!!私が食べます!! ｣
｢ あらそう? 貴志!! あんたも起きたら来なさいよ!! ｣
｢ ん、んー… ｣
ガチャリと開けられたドアから出てきたのは、タイミングが悪すぎる母ちゃんだった。
慌てて ベッドに飛び込んでうつ伏せになったことで、何をしていたかはバレなくて済んだらしい。
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