Nineteen。 ページ21
「落ち着いた？」
「うん」
「ごめんね。嫌なこと聞いちゃった？」
「いや、ただ、失恋確定なだけだから」
そんなの最初から分かっていたころだろうに。
失恋確定だと言い合って始まったその関係は、好意の上に成り立ったものでは無い。
「今日はもう、帰ろっか」
「そーだね」
奢る、と言って聞かない同僚に1円単位までピッタリ割り勘をして居酒屋を出る。
外には、私たちみたいな酔っ払った会社帰りが沢山いた。
「一駅、歩こうよ。酔い覚ましに」
「いいよ」
彼女に腕を引かれるまま歩き始めた。
彼女との間に、会話はなかった。
それでもどこか心地よくて、そしてそんな静寂に伊沢との日々を思い出すのだ。
家に帰ってテレビをつける癖がついたのは伊沢のせい。
掃除や料理が出来ないのも、そうすれば伊沢がしに来てくれるんじゃないかと思うせい。
机の上に置かれた野口英世に手を出せないのはこんなものいらないと言いたいからで、彼が買い溜めたカートンの煙草は、私には吸えないからだった。
あの部屋には、彼との思い出が多すぎる。
冷たくなった合鍵を使う人間は、もう私の傍にはいないのだ。
「…….たか、ぎ？」
ふと呼ばれた名前に、顔を上げた。
もしかしたら彼なんじゃないか、なんて期待して、そして違う誰かであることに落胆する。
「田村さん、お久しぶり、です」
え？ と同僚は意味が分からないと言いたげだった。
私の名前を呼んだのは、QuizKnockでよくゲストとして出ている人で、その横にはナイスガイの須貝ですで有名な須貝さんだっていた。
「え、お前、久しぶりじゃん！ お前らの卒業以来か？」
「まあ、はい。そうですね」
「なに、アナタの知り合い？」
「いや知り合いって言うか＿＿」
「田村さん！」
その場にいた、誰もが驚いた。
自分だって、こんなに大きな声が出るんだ、なんて呑気なことを考えて。
無意識に流れ出る涙に田村さんはオロオロとしだして、それがさっきの同僚みたいだった。
「すみません、あの、酔ってるみたいで、特に理由はないので……」
「お、おう。ならいいけど」
伊沢、呼ぶか？
空気も読めずに続けられたその言葉に、同僚は固まった。
「大丈夫です。呼ばないでください」
「いや、でも酔ってるなら1人じゃ帰れないだろ？」
「本当に、大丈夫ですから。ほら、行こう」
「あ、あぁ、うん」
同僚の腕を引いてその場を去る。
なんだよ。田村さんに言ってないのかよ。あのバカ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 262人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
緑の白猫 - お話読ませて頂きました。人と人とのもどかしい関係を上手に書かれ、読んでいてウルッときました。良い作品をありがとうございました。 (2021年4月2日 16時) (
レス) id: 41276e8159 (このIDを非表示/違反報告)
たかせ(プロフ) - 奈都さん» 奈都様にそう言っていただけるなんて……嬉しい限りです……！ ありがとうございます!! (2020年4月4日 1時) (レス) id: 66eef8f813 (このIDを非表示/違反報告)
たかせ(プロフ) - 空白@吹部@Tp@不定期浮上さん» コメントありがとうございます!! 出来るだけ早く公開できるように精進致します!! (2020年4月4日 1時) (レス) id: 66eef8f813 (このIDを非表示/違反報告)
奈都(プロフ) - はじめまして。最初から最後まで夢中になって読み切ってしまいました。終わり方にかなり驚いてしまったのですが、どうか最終的には幸せな終わりが来てくれますようにと祈りつつ、続編も楽しみにしております…！ (2020年4月4日 1時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
空白@吹部@Tp@不定期浮上(プロフ) - 続編何年後でも待ってます！！！頑張って下さい！！！！ (2020年4月4日 1時) (レス) id: 16e27b9642 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：たかせ
| 作成日時：2020年4月3日 2時
