Five。 ページ7
家に帰って、大量に散乱した段ボール箱が嫌になる。
この殆どが伊沢の荷物なんだから、本当に意味が分からない。
別にこの賃貸の契約者は私一人だし、同棲し始めたわけではない。
伊沢には伊沢の帰る家があって、ここは私だけの家である。
だというのに、だ。
「いい加減、片付け終わらないかなあ」
あれだけ引っ越しを楽しみにしていた伊沢は、この賃貸の契約をしてから一度も足を運んでいない。
また置いていかれたとかではなく、単純に忙しいからだ。
毎日律儀に来るメッセージに適当に返事をして風呂に入る。
私一人だと、どうにも広く感じすぎてしまうのは、学生向けの賃貸の狭い風呂に慣れてしまったからだと思いたい。
「あぁ〜、もう、本当になんなのよ」
惰性的に続くこの関係性に甘んじて引っ越しまでして、鍵を受け取った早々に作ったスペアキーはきちんと伊沢の手元にある。
黒い箱の向こうの人間が、今はちゃんと手の届くところにいるのに、全然距離が縮まっただなんて思えない。
いくら身体だけが触れ合っても、私たちの気持ちが同じ方向を向くことなんてないのだ。
ざぱり、と浴槽に貯めたお湯が揺れた。
浴槽から零れて排水溝に吸い込まれていくこのお湯のように、私の恋心も許容範囲を超えて溢れ出てしまったら、一体どうなってしまうのだろうか。
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緑の白猫 - お話が綺麗に終わり、伏線回収まで綺麗で、読み終えた時に、清々しさと良い小説を読んだ時特有の多幸感に満たされました。良い作品をありがとうございました。 (2021年4月2日 16時) (レス) id: 41276e8159 (このIDを非表示/違反報告)
たかせ(プロフ) - くぅかなさん» キュンキュンだなんて嬉しい限りです!最後までお読みいただきありがとうございました! (2020年4月6日 14時) (レス) id: 66eef8f813 (このIDを非表示/違反報告)
くぅかな - 一気読みさせて頂きました!クライマックスはもう…熱が出たんじゃないかっていうくらいキュンキュンしてました笑 (2020年4月6日 14時) (レス) id: 8242ba3eb6 (このIDを非表示/違反報告)
たかせ(プロフ) - 藍知さん» こちらこそ、最後まで読んでくださりありがとうございました! (2020年4月6日 11時) (レス) id: 66eef8f813 (このIDを非表示/違反報告)
藍知(プロフ) - 一気に読んでしまいました。素敵なお話をありがとうございます。 (2020年4月6日 5時) (レス) id: 327f8bffcc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たかせ | 作成日時:2020年4月4日 12時