ディアーマイラヴァー【山田哲人】その2

71愛 ページ23

.



｢ちょっと待てや！！｣



.


聞き覚えのある声が耳にぐわんと響いて
私の頬に伝わせていた誠也くんの手を
無理矢理引き剥がした____________哲人


.


やだ、なんでここにいるの？
試合、してたんじゃないの？
どうして誠也くんから私を離すの？

頭の中、ぐるぐる
目の前の状況に思考が追いつかないってば


.


｢哲人さん、なんで…｣

｢誠也、悪いけどこいつは俺が連れて帰るわ｣

｢やだ哲人、何してんのよ｣

｢行くでA｣

｢ちょっと！｣

｢哲人さん！……Aちゃん！？｣


.


唖然とした誠也くんが遠ざかる
いや……遠ざかっていってるのは私だ

だって私は今、に手首を掴まれて
自分からは身動きが取れないまま
哲人にどこかへ連れていかれそうになってるんだから


.


どうすることも出来ないまま
誠也くんは人混みの中に消えて見えなくなった

………何考えてんのよ
哲人の顔が暗くてよく見えない

ねぇ、もういい加減にさ


.


｢離してよ哲人！ねぇ！｣

｢やだ｣

｢いいから早く！お願いだから離して！｣

｢……離したらA、誠也んとこ行くんやろ｣

｢そうだよ？だからすぐ離して！｣

｢そんなん尚更離せんわぁ｣


.


私の方を見向きもしないまま
現役プロ野球選手の握力を直に感じさせてくる哲人

少ししか歩いてないはずなのに
気づいたら人気のない場所に来ていて
私と哲人の二人きりの空間が出来上がってた

ねぇ、尚更離せないってどういうこと？
どうしてため息混じりでそんなこと言うのよ


.


｢なんでこんなことするの？
なんで私の居場所突き付けてまで来るの？｣

｢この前ラーメン行った時に偶然LINE見えたん｣

｢だからって…だからってなんで来るの！？
これは仕事！立派な私の仕事なの！

哲人だって野球の邪魔されたら嫌でしょ？
私だって同じ！これ、営業妨害って言うの。
大人なら分かるでしょ！？

誠也くんが太客になってくれたら、もっとお金が入るはずだったのに……っ｣


.


あーもう、やだやだ。

思い返したら腹立ってきちゃった
誠也くんにも申し訳ないし、何よりキャバ嬢期間の中で最大級のチャンスを自分の手以外で逃しちゃったことが、惨めで悔しくて仕方がないよ

何やってくれてんの哲人
私来週からお店にどんな顔して出勤すればいいの

縛りのない左手で、哲人の広い背中を叩いた


.



｢…もう、キャバクラで働くのなん、やめぇや｣



.


夜の空に溶けてしまいそうな声音
哲人は私の手を、するりと離した


.

72愛→←70愛

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す