ひとときのあいを【短編集】

□. 平沢大河 ﾘｸｴｽﾄ ページ12

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来シーズンへの力備え


日本の南へ旅立つ彼を 空港でお見送り


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「僕がいなくても浮気は無しね」

「大河くんこそ、南国美女にデレデレしたりしないでね」


負けじと言い返せば、心配しないでと笑う大河くん。

元々困り眉をしているのに、少しでも笑えば更に垂れ下がって。
でも、それがまた可愛かったり。

大きな丸い目、
これでもかってくらいに小さい顔、
筋の通った鼻、
キメの細やかな肌

私よりも女の子って感じの大河くんに「可愛い」と伝えれば、彼は決まって「可愛いは恥ずかしいから嫌だ」って軽く小突いてきて。

…そっか、このやりとりもしばらくお預けか。


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「パパ、早く帰ってきて！」

「おう、頑張って働いてくるから待っててな」


感傷に浸っていたら、目の前で繰り広げられるのは私たちと同じようなシチュエーション。

お父さんと娘…5歳くらいの女の子…と、その側にはお母さんらしき人。

男の人も、飛行機に乗ってどこかへ行くのかな。

泣きながらお父さんに抱きつく女の子と、よしよしと女の子の頭を撫でるお父さん。


「可愛いね、パパ行っちゃうのが寂しいのかな」

「Aもいつもこんな感じじゃん」

「え」


一緒に映画見た時だってわんわん隣で泣いてたし、

僕が初ホームラン打って帰って来た時だって鼻水垂らして抱きついてきたし。


大河くんが、涼しい顔であっけらかんと言うものだから拍子抜けして。

…でも、異論はないです。
泣き虫の私は、これまで何度も何度も大河くんを困らせてきたから。

それでも、論破されたら妙に悔しくなって。
大河くんの柔らかなほっぺを、軽く抓った。

「いてっ」と頬を撫でる大河くん。


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「今年は…落ち着いてるね」

「え？」

「去年のこの時期は、毎日のように寂しい寂しいって駄々こねてたのに」


今年は「大河くん頑張って」って、泣いたりしないの？

にやにやと悪戯な少年のような笑みを浮かべる大河くん。

時々現れる「S大河くん」を、隅から隅まで、目に焼き付けるように見つめてみる。


(しばらくは、別れ別れだから)


今から旅立つ大河くんを見ていたら、我慢していた胸の奥の熱いものがじわじわとこみ上げてきて。


「っ頑張れ、大河くん…！」


頬を伝う涙。
こぼれ落ちるのをそのままに、大河くんの首に手を回して抱きついた。

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(永遠の別れじゃないからね)

(分かってるけど…)

(一皮剥けて帰ってくるから、待ってて)

(…うん、待ってる)

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□. 柳田悠岐→←□. 甲斐拓也

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