∬035 ページ37
《ジョースター邸 庭園》
早朝の冷たい空気を飲みこみながら、真紅の薔薇たちが咲いている。
ささやかな薔薇園の前で、ディオはAを待っていた。
「Aのヤツ……」
――(温室育ちの薔薇を取り寄せて花壇に移し替えたのか。フン、浮かれすぎだ)
しかし――わざわざ人を庭に呼び出すということは、何か大切な話でもあるのだろうか――と考えながら、手癖で花びらの表面をなぞる。
ディオの指先を受けて、嬉しそうに頭を垂れる薔薇。
その姿が、Aの頭を撫でているように思えて、さっと手を引っ込めてしまった。
「おまたせ! ディオ!」
「やあ、遅いじゃあないか」
「ごめんごめん。最後の仕上げに時間がかかっちゃって」
Aは「ちょっと目を閉じていて」と言う。
「イタズラはよせよな」
「もう、そんなんじゃないってば」
ふわり、Aはディオの首に柔らかいものを巻いた。
「目、開けてみて」
「これは……」
「絹の糸で編んだマフラーよ」
彼女の目に真剣さが宿る。
「ディオ、私と結婚して。そのマフラーは私たちの婚約の証。もし私との結婚が嫌だったら、そのマフラーは――」
言いかけたとき、ディオの唇が重なってきた。その先の言葉を塞ぐように。強引に。
「A、ぼくも君と同じ気持ちだ。できるなら、このままずっと二人でいたい」
その胸に殺し文句の釘を打ち付けた。
Aを腕の中にたぐり寄せると、彼女のあたたかい体温が透けてくる。
抱きしめ合いながら、ディオは別の事を考えていた。
――(よくぞ言ってくれた! その言葉を待っていたぞッ! これで未来のダイヤモンド鉱山はこのディオに約束された!)
「はやくお父様に紹介したいわ」
「ああ。きちんと挨拶しなきゃな」
――(あと1年後には父親の事業が落ち着き、こいつは元の家に帰る。それまで表向き優しくしてやればいいのだ。そして7年後には一気に『結婚』という事実が手に入る! ジョースター家の財産とレッドフォード家の財産! すべておれの物にするッ)
「でもまさか君が、苦手な裁縫をこなしていたとは」
「苦手なんじゃないわ。退屈だから嫌いなだけ! 編み物くらい普通にできるもん」
Aは桃色の頬をプクリと膨らます。
「だけど――」
「 ? 」
「そのマフラーを編んでるときは、ぜんぜん退屈しなかったけどね」
あたたかい首元に全神経が集中した。
糸の一本一本に、乙女の魔法がかけられているようで。
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推しの命は私の命 - ジョナサン空気( ゚இωஇ゚) (10月15日 15時) (レス) @page43 id: 0046fb2d1c (このIDを非表示/違反報告)
油電(プロフ) - 黒猫歳花さん» コメありがとうございます…!そう言っていただけて嬉しいです(*´ω`)これからも、胸に刺さるキュンキュンを目指しながらお送りしますッ (2018年5月4日 23時) (レス) id: 95fd139937 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫歳花(プロフ) - はじめまして、この作品を読んでいるとディオにキュンとしっぱなしで楽しいです!これからも頑張ってください(*^▽^*) (2018年5月4日 20時) (レス) id: ae43b29bb1 (このIDを非表示/違反報告)
油電(プロフ) - おバカな傀夢さん» ありがとうございます笑 ディオのキャラが崩壊していないか不安でもあります(汗)お話も中盤にさしかかって参りました…! 引き続きよろしくお願いします(*^-^*) (2018年5月4日 12時) (レス) id: 95fd139937 (このIDを非表示/違反報告)
おバカな傀夢(プロフ) - おおっ!?やっと…やっと気が付いたかッ!ディオ〜!!大好きだ〜!!油電様も大好きです笑 (2018年5月3日 22時) (レス) id: 5ff30031ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:油電 | 作成日時:2018年4月1日 21時