午睡の夢（シルバー）１/３ ページ12
この時期になるともうだいぶ寒くなってくるので、布団から出るのがむずかしくなる。特に、昼間のすこしあたたかい時間に昼寝なんかをすると頭がぼやぼやして、ずっと寝ていたくなる感じだ。
昼寝から覚めた俺はぼやぼやとした頭で、なんとなく窓の外を見たり、隣で寝ているAの寝顔を眺めたり、さらさらとする髪に触れたりしていた。
今日は休日で、これと言った予定もない。こんな日は本来ならば恋人らしくAとどこかに出かけるべきだったのだろうが、休日特有のゆるりとした微睡みにふたりまとめて流されてしまって、ただ一緒に昼寝をするだけの日になってしまった。俺が恋人らしいことをあまりしてやれていないにも関わらず、Aはそれを不満がることなく、いつだって幸せそうに笑んでいる。Aの笑顔はあどけなくて可愛らしく、周囲にはいつも花が舞っているように見える。俺はそれが好きで、Aが笑うその一瞬でもう恋に落ちているのにまた恋に落ちるような心地になる。
Aの細い首や、俺の手より二回りほども小さな手を見ると、彼女を守ってやらなければいけないという気がする。この世界でひとりきりである彼女に寄り添い、守り、埋まることのない孤独を少しでも埋めてやりたいと。そうすることこそが俺の義務であると、そう思う。
Aは人前では気丈に振舞っているが、時折、家族の名前を呟いては涙を流すことがある。帰りたい帰りたいと言いながら何度も鏡に触れ、元の世界で彼女の帰りを待っているであろう家族や友人の夢を見て涙を流す。どこにも寄りかかれるところのない彼女はいつもふらついて、俯いて、泣きながら笑って日々を生きている。彼女は俺が支えてやらなければすぐにでもこの手のひらから滑り落ちてしまうだろう。
いつかAが元の世界に帰ることになったら、俺は笑顔で送り出せるだろうか。Aに恋をしてから、それがずっと不安でならなかった。今でこそ恋人同士だが、Aはこの世界の人間ではないし、帰る方法さえ見つかればいなくなってしまう存在だ。
Aが元の世界に帰って、そこで段々と俺を忘れていくのも、そして新しい恋人を作るのも、誰かと結婚するのも、誰かとの子供を持つのも、誰かと死んでいくのも、俺には止められない。何もかも。ましてや帰りたいという願いを阻むことなど。「帰らないでくれ」と願う権利すら俺は持っていない。それなのに俺という人間はAを帰したくないと思ってしまっているのだ。
午睡の夢（シルバー）２/３→←ゆうやけこやけ（フロイド）２/２
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 19人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
タカマツ(プロフ) - ステラさん» リクエストありがとうございます！頑張って書かせていただきます！ (4月8日 22時) (
レス) id: 2b6c41affa (このIDを非表示/違反報告)
ステラ(プロフ) - リクエストでヴィル様のヤンデレで書いて下さい！ (4月8日 17時) (レス) id: 77f430fdd5 (このIDを非表示/違反報告)
タカマツ(プロフ) - クッピーさん» たくさんお褒め頂きありがとうございます！いつも励みになっております！フロイドくん、シルバーくん、ロロくんの３話は元々サイトと支部の方に載せていたもので、それをそのまま持ってきました。それとリクエストありがとうございます！頑張って書かせていただきます！ (4月6日 20時) (レス) id: 40ebf0ac6e (このIDを非表示/違反報告)
クッピー - 最高の作品ありがとうございます。短期間でこんな数の作品を作り、その上作品にドロっとしたヤンデレ感を入れつつ、キャラクターの特徴をここまで再現するのはすごいです。もしも良ければ、リクエストで、クルーウェル先生をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか？ (4月6日 14時) (レス) @page17 id: fd40d0f1db (このIDを非表示/違反報告)
タカマツ(プロフ) - クッピーさん» リクエストいただきありがとうございました！いつも温かいコメントをくださってありがたいです…！頑張ります！ (4月6日 0時) (レス) id: 40ebf0ac6e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：タカマツ | 作成日時：2024年2月12日 23時
