無感情ブラック【刀剣乱舞】 (ページ39)

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　脱衣場には一通りの掃除用具が常備されていた。とりあえずバケツとモップ、それから箒を取り出し、水の出を確認してから風呂場に水を撒いた。

「あの、俺はどうすればいいでしょうか」

　長谷部様が、所在なさげに肩をすくめる。

「そうですね……長谷部様は虫は平気ですか？」

「虫……ですか？ええ、まあ。好ましい、というわけではないですが、平気か平気じゃないかでいわれれば……」

「では……その、誠に申し訳ないんですけれど、ゴキブリの駆除をお願いしてもよろしいですか」

　長谷部様は一寸、理解できないというように目を瞠ると、そろそろと床に視線を落として「蜚蠊(ゴキブリ)」と呟いた。

「酷い嫌悪感を伴う作業になるので、無理だったら構わないんですけど。でもその場合、どうしてもこいつらを隣にしながら作業することになるので……、……いえ、やっぱり大丈夫です。あとで殺虫罠を持ってきますから、一緒に湯船の掃除をしましょうか」

　虫の駆除を先に持ってくるのは、時間の問題で少し厳しい。私は風呂(ここ)の掃除に、そう何日も時間をかけるつもりはない。だから、私が湯船の掃除をするのと同時進行で、そちらの方を進めて頂こうと思っていたのだが……。

　サーッと青ざめていく長谷部様の顔を見て、一気にその考えも飛散した。いくら神様でも、やはり嫌なものは嫌らしい。酷なことを頼んでしまったと、少し反省している。

　しかし長谷部様は、存外遠慮というものを知らない質のようだ。お決まりの「主命とあらば」という台詞を呟いて、震えながら手袋を外すものだから、さすがに私もギョッとした。

　なんというか、とんだ忠誠心である。

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