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 彼に名前を訊こうと口を開いた瞬間、スパンと風呂場の戸が開き、外から長谷部様が慌てた様子で入ってきた。

 酷く取り乱した様子で「何をしてらっしゃるんですか!?」と叫ぶと、刀を持ったまま押さえられている彼を見て、大きく目を見開く。そして、忌々しげに何事かを呟くと、「何を馬鹿なことを!」と思い切り彼を怒鳴りつけた。


 初めて聞く彼の大声に、私のみならず、押さえつけられている彼までもがビクリと肩を揺らした。汚れたタイルに、だらりと青いポニーテールが垂れる。「なんだよ、おまえ、おまえ、あっちに行ったくせに、僕は止めたのに、おまえが、おまえの──」




「……長谷部様。彼のお名前は?」

「ッ……大和守、安定、といいます」

「大和守……ああ、沖田総司の」




 途端、「おまえがその名を口にするなっ!」という大和守様の叫びと、「主に向かってなんという口を!」という長谷部様の叱責が辺りに飛んだ。グワンと脳内に響く声に、思わず耳を抑える。

 口喧嘩はまったく構わないのだが、如何せんここは風呂場だ。本丸の中と違って、だいぶかなり音が響くのである。そのことに大和守様も気づいたのか、居心地の悪そうな顔をして口をつぐんでいた。


 ……ふむ。突然奇襲をかけるくらいだから、一体どんな性格をしているのかと思ったら……案外、良い心根を持つ青年のようだ。



 私はそっとモップを退かし、顔を歪めてうずくまる大和守様にそっと声をかけた。




「大和守様」

「……なに。ああ、僕を罰するの? いっとくけど、僕を罰したところで、あいつらにはなんの痛手もないから。僕を使ってあいつらを苦しめようと思ってるなら、それは無駄だからね」

「さあ……そうでしょうか。私は無駄とは思いませんけど──そうではなくて。突然の奇襲に驚いたとはいえ、モップを押し付けてしまってすみませんでした」

「は?」

「臭かったでしょう。見たところ、しばらく使われていなかったようですし。顔になんて押し付けてしまって……とっても綺麗なお顔なのに」




 大和守様はしばらくポカンとしていたが、やがてじわじわと顔を赤らめ、心底意味がわからないといったふうに顔を歪めた。無論、顔は耳まで真っ赤なままだ。

 少しお顔を褒めた──というか事実をいった──だけなのに、ずいぶんな反応だ。恥ずかしがり屋なのだろうか。




「は、はァ? 意味わかんないし! あ、あんた、頭おかしいんじゃないの」


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フキ(プロフ) - 好きです!続きがとっても気になります!! (2022年6月15日 23時) (レス) id: 171aa22f7a (このIDを非表示/違反報告)
高橋かかし(プロフ) - あんこもちさん» アーーッそうでした!万死……、 すぐに修正します!ありがとうございました! (2019年12月7日 12時) (レス) id: ad9f3afa3e (このIDを非表示/違反報告)
あんこもち(プロフ) - 鯰尾と骨喰は元大太刀ではなく薙刀では? (2019年12月7日 11時) (レス) id: 1c5e807086 (このIDを非表示/違反報告)
高橋かかし(プロフ) - ありがとうございます!頑張ります´ω`* (2019年8月2日 13時) (レス) id: ad9f3afa3e (このIDを非表示/違反報告)
0dh38w152yz4d3p(プロフ) - とっても面白いです!更新楽しみにしてます(*^^*) (2019年7月31日 16時) (レス) id: b48a4a1bf4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:高橋かかし x他1人 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2018年11月18日 20時

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