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唐突に背後から聞こえた声に、思わず薬研様と二人してギクリと身体を揺らした。
「何を、しているのです」
声はもう一度同じことを問う。骨喰様はゆっくり振り返ると、不思議そうにぱちりと瞬きをした。それから一瞬の間を置いて「いち兄」と上ずった声でいうと、喜色満面といった雰囲気で頬をゆるめた。
「審神者が、兄弟を治してくれると」
「審神者が?」
一期一振様は、そこで初めて私たちに気づいたかのような表情をして、わざとらしく驚いてみせた。「これはこれは」空虚な目が微笑む。「いらしていたのですか、審神者殿」
「昼間ぶりですね、一期一振様」
「ええ。……それで? 鯰尾を手入れしてくれるとか」
「はい、そう頼まれましたので。最も、頼まれなくともあなた方の許可が出れば、手入れさせて頂く予定でしたが」
手間が省けました、という言葉は呑み込んで、ただそっと目を伏せる。一期様はしばらく何かを探るような目をしていたが、やがて諦めたのか顔を上げにっこりと微笑んだ。
「成程それはありがたいですな。ですが審神者殿、ここから先は我ら粟田口の部屋。勝手に入ることは御遠慮願いたい」
「……勝手に、ではないはずですが? 骨喰様から許可を頂きました」
「骨喰だけに許可を取っても仕方がないでしょう? この部屋は本丸一多くの者が生活しているのですから。……が、しかしさすがに全員に許可を取ることはいくら審神者殿でも出来ますまい。ですからまず、この部屋に入る際は私に許可を取って頂きたいのです。そして現在許可を取っておられないあなたには、即刻お立ち退き願いたい。お分かり頂けましたかな」
笑顔で繰り広げられるマシンガントークに、さすがの私も思わず眉を寄せた。しかし一期様は依然、ピクリとも変わらない笑みを浮かべている。少しばかり薄ら寒さを感じ、私は肩にかかっている羽織をそっと身体に寄せた。
「……では、鯰尾様の本体を渡して頂けますか。手入れ部屋に持って行きますので」
「ははは、お断りします。さあ骨喰、余計なことを考えていないで、さっさと部屋に戻りなさい。何、鯰尾のことはこの兄がなんとかするから、おまえは自分の心配をしていなさい」
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粟田口編開始です。
そして今更ですが、星が赤くなっていました。コメント等もたくさん頂けて、嬉しい限りです。ありがとうございます。
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フキ(プロフ) - 好きです!続きがとっても気になります!! (2022年6月15日 23時) (レス) id: 171aa22f7a (このIDを非表示/違反報告)
高橋かかし(プロフ) - あんこもちさん» アーーッそうでした!万死……、 すぐに修正します!ありがとうございました! (2019年12月7日 12時) (レス) id: ad9f3afa3e (このIDを非表示/違反報告)
あんこもち(プロフ) - 鯰尾と骨喰は元大太刀ではなく薙刀では? (2019年12月7日 11時) (レス) id: 1c5e807086 (このIDを非表示/違反報告)
高橋かかし(プロフ) - ありがとうございます!頑張ります´ω`* (2019年8月2日 13時) (レス) id: ad9f3afa3e (このIDを非表示/違反報告)
0dh38w152yz4d3p(プロフ) - とっても面白いです!更新楽しみにしてます(*^^*) (2019年7月31日 16時) (レス) id: b48a4a1bf4 (このIDを非表示/違反報告)
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