4話 ページ2
忘れたくても忘れられない経験は今でも鮮明だ。
「また…！」
また三兄弟に何かするつもりなのだろうか。
あの事件を思い出すとぞっとする。
「アンタは、なにも見なかった。いいな」
「モランさん？！」
手紙を
「フレッドをここに運んでくれた事は心から感謝する。けれど、ここまでだ。」
「でも…！」
万が一、ウィリアム達に何かあったら…！
ぞっと全身の毛が逆立つ。
「アンタに何か出来ることはない。むしろ足手まといだ。わかるな？」
わかる。
ルイスを守るつもりが結局捕まり人質にされた。
私にできることは…、ない。
「期待したか？」
「何をですか？」
「ウィリアムがここに来るんじゃねぇかって」
真顔のモランにふっと笑いが込み上げた。
「それはありませんよ。運び込まれたのがフレッドさんじゃなくてルイスならともかく。そこまで世間知らずじゃありません」
フレッドは使用人。
使用人の為に貴族が動くことはない。
「そうか。なら、この金の意味もわかるな」
モランが出した小さな袋。
中を見なくてもわかる。金貨がぎっしり詰め込められてるのだろう。
「口止め料って事ですか…。わかりました」
送っていくというモランの申し出を断り、病院から出ると、転がるように走ってくる人物に、思わず笑ってしまった。
「ロバートさん」
「ああ！良かった！！君が病院に運ばれたって聞いて！」
肩で息をして、髪はボサボサ。
馴れないことをしたからだろうか。
カッコ悪いけれど心配して来てくれたのだとよくわかる。
大事に思われている事に全身がくすぐったくなる。
本当にいい人だなぁ。
「違います。怪我人をジョンと運んだんです。私はどこもです。」
ああ、よかった！！と、その場にへたりこんでしまった人をそっと包み込む。
「用は済んだの？」
「はい、お屋敷の方が来たので」
視線を向けると玄関まで送ってくれたモランがよそ行きの顔でお辞儀をする。
ロバートはそれで納得したようだ。
「じゃあ、送っていくよ」
「え？でも、ロバートさん、お仕事は？」
「君の一大事に仕事なんかしている場合じゃないだろう？」
真剣な目と言葉。
Aを優先してくれるその心遣いがくすぐったくてたまらなかった。
昼間のぽかぽかした日差しのなか、婚約者との散歩の時間は特別なものに感じた。
口止め料のせいで冷めた心まで温まるようだ。
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ゆりあ(プロフ) - 一気読みしてしまう程素敵なお話、ありがとうございます！各キャラが光り、ロマンスと悲劇、そしてシャーロック・ホームズのシリーズ独特の空気感が本当にバランスがよく混ざっていて、1回だけの評価じゃ物足りないです。これからも楽しみにしています！ (2020年11月3日 9時) (
レス) id: 45a22d77c5 (このIDを非表示/違反報告)
may - 面白いです！ (2020年6月23日 12時) (レス) id: f06d3bd476 (このIDを非表示/違反報告)
瑠奈(プロフ) - 面白くて最初から一気読みしました！オリジナルの要素が面白く、かつ世界観やキャラの雰囲気はそのままで、これから先もとっても楽しみです。星10を1回しか付けられないのが残念です。応援してます！ (2020年6月17日 21時) (レス) id: a9fe05af76 (このIDを非表示/違反報告)
るい(プロフ) - とても素敵なお話に一気に読んでしまいました。とても2人の行く末がきになります！お身体に十分気をつけて、頑張ってください。 (2020年4月4日 19時) (レス) id: e522c50a47 (このIDを非表示/違反報告)
飛燕(プロフ) - ななしさん» ななし様へ ご指摘ありがとうございました。訂正しました。 (2020年3月31日 17時) (レス) id: 0f92dbd5b0 (このIDを非表示/違反報告)
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