97〜side 広臣〜 ページ48
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「A、会いたかった」
突然立ち止まったAに駆け寄り、握った小さな手
「…………ごめん、まだ怖い……か」
泣きそうな顔で俯いたAの手が、俺の手を握り返すこともなく大きく震えた
俺はどうしていいのか分からなかった
Aから電話をくれたことで、"もう会えるんだ"
"もう大丈夫なんだ" と期待しかしてなくて
だから、Aの口からこんな言葉が放たれるなんてちっとも思ってなかった。
「……………別れて、ほしいです」
目の前が、頭の中が真っ白になる
「……………なんで」
「…………ごめん、なさい」
Aの頬に一筋の涙が流れる
拭ってやりたい………
伸ばしかけた手が行き場を失くし宙を浮いた
これでまた拒否られたら、また怯えたら
俺たちは本当に終わるんじゃないかと思ったから。
「なぁ、俺はAを支えていきたい。いつまでも待つから……Aが受け入れてくれるまで、俺は待つよ。
…………だから、別れるなんて言うなよ」
俺には、Aしか居ないんだよ
Aが居なきゃ生きてけねぇって言ったろ?
また忘れたのかよ………。
「臣くんと居ると苦しいの……だから、もう私のことは待たないで………忘れて」
「それ………マジで言ってんの?」
一度も目を合わせないAは首をゆっくり縦に振った。
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どんどん離れていく小さな背中をぼんやり眺めるしか出来ない、情けない男。
別れることに納得したわけじゃない、諦めるなんて出来るわけねぇよ
でもここで追い掛けたら、苦しめる
Aのために俺がしてやれる事は、一体なんだろう
そばにいる事も許されないなら、Aの意見を尊重してやることしか………それしか出来ない。
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それから数日、もう一度話したくて向かったAのマンション
なぜか鍵の掛かっていないその部屋は、空っぽになっていた。
何度かけてもコール音が鳴らない携帯
それが、Aの出した答え。
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作者名:taka | 作成日時:2016年4月19日 23時