私のラプソディ

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『ピアノって楽しいんすか？』


ラーメンを食べ終わってんだか、食べ途中だかわからないような口の動きのまま矢花が問いかけてきた
なんとなく口元が緩そうで、口からラーメンが出てくるのではないかとハラハラしてしまう


『矢花もやってるでしょ？』

『まあやってますけど』

『楽しくないの？』

『俺はギターの方が好きですね』



…ピアノが好きか
普段そう聞かれたらなんて答えるかわからなくなってしまうけど、今ならなんとなく答えられる気がする



『なんかね、今日。本当にピアノやってて良かったなぁって思ったよ』

『今日突然ですか？』

『そう。…なんかさ、嶺亜に振られて心が参ってたというか…なんとなく言葉にできないモヤモヤってあるじゃん？』

『ありますね、、』

『そういう時に何か人に話してもわかってもらえない事ってあるじゃん。…まあわかってくれればそれが一番だけどさ

そういう自分の気持ちをそのまま音とか、強弱とか、弾き方とかに全部表すの。音楽って…というか、芸術ってそういう事でしょ？』

『おっしゃる通りです』



矢花が呑気に替え玉を頼みながらじゃあ先輩みたいな情熱的なタイプにはぴったりですね〜なんて言う


『そんなに私って感情的？』

『まあ理論的ではないと思いますけど』

『例えば、一歩間違えたら不倫しちゃうとか、犯罪に手を染めちゃうとか？』

『いやいや、そこまで言ってませんけど』



ラーメン屋の一昔前のような茶色いテレビに危ない薬で逮捕された芸能人がでかでかと報道されていたので食い入るように見てしまう


…この人も痴情のもつれから薬に手を染めたのか、、



『恋愛って怖いよね、よくもあれば悪くもある』

『そうですねえ…まあ先輩見てたら楽しそうですけど』

『そう？』

『楽しくないんですか？』



少し考える
嶺亜に恋をして辛い思いをした
それは事実だ


だけど、惰性で人生を過ごしているよりよっぽど世界に色がついているように思えた



『すっごい、楽しいよ。だから矢花も恋愛しな』

『ですよね〜』


二人して何回か替え玉をしてラーメン屋の暖簾を再びくぐる
食べ過ぎて電車に乗ると気持ち悪くなりそうだから大学までは徒歩で行く事にした



『矢花明日空いてる？』

『あー、すいません。明日は嶺亜君に誘われてて、、』

『へ〜！珍しいコンビ〜』

『先輩も来ますか？』

『いや？いいや。二人で話したい事もあるだろうし。邪魔したら悪いでしょ？』

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