キミと月のブランコ。３ (ページ48)

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「ありがとうございました。」

「いいえ。またね、Aちゃん。」

「はい。おやすみなさい。」

「おやすみ。」

臣くんとその会話を最後にタクシーを降りた。

アパートの前、走り去るタクシーを見送った。

「………寒っ。」

春はもうすぐだっていうのに、夜はまだまだ冷たい風が吹く。

早く布団に入りたい。

手のひらに息を吹きかけながら小走りで向かった外階段。

「うわっ！！」

真っ先に目に飛び込んできた無いはずの人の姿に驚いて、心臓がバクバクと暴れた。

「ビックリしたぁ。」

私の驚いた声に反応したその人は、腕に伏せていた顔をゆっくり上げた。

「…………A。」

５段目辺りに座り込んでいたのは隆二だった。

「隆二！なにしてるの！？」

急いで駆け上がって目の前に立つと、私の両手を握って嬉しそうに笑った。

「待ってたの、ずっと。早く帰ってこないかなぁって………待ってた。」

「電話してくれたらよかったのに。」

「電話ねぇ………充電切れちゃったんだよねぇ。」

あはは～って、へらへら笑う。

その瞬間、鼻をついたあのにおい。

「ねぇ、酔ってる？」

すんごいアルコールのにおい。

よく見たら顔も真っ赤になってて、子どもみたいな口調はそのせいだったのか。

「んー…………ちょっとだけね。」

「隆二、立って？家に入ろう？」

「……………泊まってもいい？」

「私、明日朝早いけど大丈夫？」

「全然平気。」

「じゃあ、立って？」

「はい、立ちまーす。」

ちょっとどころじゃない酔いっぷりの隆二はずっとにこにこしてる。

私の手を握ったまま踏ん張りながら立ち上がって、隆二はその手を引っ張った。

同じ段へと上げられて、私の体はあっという間に隆二の腕の中に。

久しぶりに感じた隆二の温もりを体に染み込ませたくて、背中に腕をまわして顔を胸に寄せた。

目の前に見える首筋からは隆二の匂いがして、落ち着くし離れたくないなって。

本当にこの人が好きなんだなぁって思った。