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「りゅ、隆二さん!怒っちゃダメだよ?」
彼の腕を握った岩ちゃんは、必死になだめる。
「大丈夫だって、俺怒ってないから。」
よ、良かったぁ。
ホッとした私を見て、彼は言葉を続ける。
「臣の事は知ってて、俺の名前は知らないんだね。」
その声は怒ってるんじゃなく、不貞腐れてるよう。
「りゅ、隆二……隆二さん、ですよね。」
「今、岩ちゃんが言ったからでしょ。」
「………すいません。」
「気付いてたんだ、あの時……俺だって。」
「マ、マスク外された時に。気付きました。」
「名前は知らなかったみたいだけどね。」
「…………すいません。」
所々、嫌味だな。この人。
「騒がないでいてくれて、ありがとう。」
「えっ!?」
「ああいう場所でも握手とか、写真とか……求められる事もあるから。この仕事してると。」
「そうなんですね……それは、嫌ですよね。」
「逆に助かったよ、俺のファンじゃなくて。」
これも、嫌味なの!?
でも、彼は笑っていた。
あの日見た、三日月のように目を細めて。
「いまいちりゅうじ……俺の名前、覚えてね?」
「はい。忘れません。」
柔らかく笑う彼は、やっぱり優しい人だと思う。
見た目は少し、怖いけど。
カウンターで会員情報をiPadに打ち込む隆二さんの隣で、岩ちゃんは疑問を私にぶつける。
「Aちゃんは俺の担当でしょ?隆二さんは、どうするの?」
「とりあえず今日は、他の子に。」
「えー、誰だれ?」
「えっと、奈央ちゃんにお願いしてる。」
「あー、静かそうな子?」
「うん、めっちゃ静かな子。でも、腕は確かだよ?私が育てた子だからね。」
「すげぇ持ち上げたね、自分のこと。」
「たまには自分を褒めなきゃ。褒めてくれる人居ないし。」
「可哀想にね……俺が褒めるよ、これからは。Aちゃんのエステ最高って。」
「なに、その棒読みな感じ。全然嬉しくない。」
「仲良いんだね、2人。」
私と岩ちゃんのやり取りを見た隆二さんは、そう言いながら微笑んだ。
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作者名:taka | 作成日時:2017年1月19日 20時