キミと月のブランコ。 (ページ33)

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「隆二さん、起きて下さい。」

あの後結局目を合わせられず瞑ってしまった私を見て、隆二さんは＂ごめん、今の忘れて。＂と手を離してくれた。

そのまま、眠ってしまった。

「ん、寝ちゃったわ俺。」

眉間に皺を作って眩しそうに目をシバシバさせながら起き上がった。

寝起きだからか、怠そうに首を回す。

「少し肩揉みましょうか。」

少しでも疲れが取れるように。

そう思ってベッドの横に立つと、＂うん、お願い。＂と向きを変えて隆二さんは座り直した。

「力もう少し入れた方がいいですか？」

「大丈夫、ちょうどいいよ。」

「けっこうコってますね。」

「うん、マイク持つからね。知らない間に肩にばっか力入っちゃう。」

「ここの鎖骨下辺り押してみてください。押してる間は痛みがあるんですけど、楽になりますよ。」

「あー、うん、そこ気持ちいいね。」

「首もマッサージしちゃいますね。頭、押さえます。」

「うん。」

私が頭を片手で押さえ肩を揉むと、項垂れるように下を向いた。

「俺もAちゃんのエステ最高って言いたかったのにさぁ、寝ちゃったじゃん？」

「はい。」

「本業じゃないけど、Aちゃんのマッサージ最高だよ。めちゃくちゃ気持ちいい。」

「そう言ってもらえて良かったです。」

「前に言ってたじゃん、褒めてくれる人が居ないって。だから、俺が褒める。」

「思ってなくても、ですか？」

「えっ、なんでそうなんの？思ってるから！俺思ってないこと言わないから！」

焦りながら振り向いた隆二さんは嬉しくて微笑む私を見て＂なんだ、冗談？＂と安心したように笑った。

「次の予約はまた電話にするよ。」

会計で私が予約を聞く前にそう言った隆二さんは、＂あ、あとさぁ。＂と声を籠らせた。

「今日、仕事の後にご飯行かない？」

せっかく誘ってくれたのに、私は断るしかなかった。

＂じゃあ、また今度。＂と声のトーンが下がって肩を落とす隆二さんを見て胸が痛んだ。

かける言葉が見つからなくて黙ってドアを開けると、＂そうだ！あれ、ある？＂そう聞いてきた隆二さん。

＂あれ＂の名前が出て来ない隆二さんと、何が言いたいのか分からない私はそれから数分格闘した。