キミと月のブランコ。 (ページ32)

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「じゃあさぁ、あと３秒だけ。俺の目見ててよ。」

熱い視線に耐えられなくて私は手元に集中したっていうのに、隆二さんはそんな事を言い始めた。

「なんで３秒なんですか？」

３秒って、意外と長いです。

「それ、教えたらやってくれる？」

「内容によりますけど。」

「えー、どうしよっかなー。教えたらやってくれないでしょ絶対。」

「だから内容によりますって。でもそんな事言われたら……ちょっと出来ないかも。」

「うん、だからとりあえず、ね、見て？」

隆二さんはカッと目を開いて私を受け止める準備万端な様子。

「３秒………だけですよ。」

さっさと終わらせようと意を決して、隆二さんの瞳に飛び込んだ。

「いーち、」

目を合わせたまま数え始めた隆二さん。

一秒がこんなにも長いとは思わなかったよ。

たった一秒でノックダウン。

「やっぱ、無理です！クリーム乾いちゃうしさっさと目閉じて！」

「すぐじゃん、３秒なんて。」

「長いですよ！目乾くし！さっさと閉じて！」

「じゃあさっさと見て！」

「しつこいなぁ。さっさと閉じろ！」

「そっちこそ、さっさと見ろって！」

「ほんと、やだ。」

あまりの執拗さにウンザリし出した私は施術に戻ろうと両頬に手を添えた。

「あー、ちょっと！」

必死な声を出した隆二さんは突然両手を上げた。

その手が私を目掛けて降りてきて、耳元を挟んで引き寄せた。

それはスローモーションのようで、時間にすれば数秒ほどの出来事。

真下に見える瞳がジッと私を見つめてて、ピントも合わないくらいの近さに息が止まる。

そして隆二さんは教えてくれた。

「人って３秒見つめたら、その相手を好きになるんだって。」と。

私にはそんな事必要なかった。

３秒見つめなくたって、こんなにドキドキしてるんです。

だから私が見つめることは、その後一度もなかった。