恋になるとき。９ (ページ10)

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ムキになって口をむっとさせた隆二が抱きついてくるから仰向けに寝転ぶと、胸の上にコテンと頭を乗せた。

つい最近短くなった髪を撫でると私を見上げて、今度はキスを催促するように唇の形を変えた。

ムッ、から、チュー、と。

忙しい唇だ。

精一杯からだを起こしてしたキスは、目的地には届かず頬っぺたに落ちた。

「そこじゃない。」

「届かないんだもん。」

「もー。」

不機嫌な隆二が落とすキスは、ほろ苦いビールの味がした。

「岩田のこと岩ちゃんって呼ぶのそんなにダメなの？みんな呼んでるじゃん。」

キスに満足した隆二はまた胸の上に頭を乗せて、＂撫でて。＂と私の手を自分の頭に持っていく。

私は何時間も拝んでいた岩田のえろ本を、気付けば枕にしていた。

やっぱり岩田は岩田のまんま。

惚れることもなく、私に潰される。

ひどい扱い。

「Aが急に岩ちゃんなんて呼んだら、また好きになっちゃうかもしんないよ？」

「そんなわけないじゃん。宮ちゃんがいるし、考えすぎだよ。」

「最近宮ちゃんのこと、名前で呼んでるの知ってる？」

「あー、それ！今日聞いちゃったぁ！舞って呼んでた！すんごい違和感あったけど、なんかキュンとしちゃったよ！」

「宮ちゃんも好き好きオーラがすげぇ。呼び方一つで違うんだよ、距離感が。」

「そうかもしれないけど、岩ちゃんなんて呼ばれ慣れてるでしょ。」

「呼ぶ人によって聞こえ方も違うの。Aは岩田のままでいいんだよ、わかった？」

「わかったよ。もう岩ちゃんって言わない……岩ちゃんなんて……岩ちゃん。」

「いやいやいや、めっちゃ言ってるから！もう、お風呂は？入ったの？」

「まだだよ。岩ちゃん見てたから。」

「お前……岩ちゃん岩ちゃんうるさい。」

チッ、と小さな舌打ちをしてお風呂に向かった隆二。

ちょっと意地悪し過ぎたか。

もう二度と岩田さんに揺るがないように本棚の隅っこにフォトブックは封印。

さよなら、岩ちゃん。