恋になるとき。９ (ページ42)

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「今市さーん。今市Aさーん。」

「あっ、はい！」

名前が変わって約一年、まだ慣れない。

何度も呼ばれて気付くこともしばしば。

頭の中で＂私は今市。＂と呪文のように唱える。

それが思わず口から漏れた時は、隆二に大笑いされたっけ。

そんな事を思い出しながら隆二が待つクローバーへ向かう。

逸る気持ちを抑えてゆっくり歩きながら。

ガラス窓から見えた隆二の姿。

相変わらず、カッコいい。

お店に入ると手を振って私を呼ぶ。

大きくて眩しい笑顔に何度でも、胸は高鳴る。

「お待たせ。」

向かいに座った私の隣に移動して来た隆二。

「どうだった？」と、子どものようにワクワクしてる。

私はバッグから一枚のポラロイド写真を取り出して、すっと差し出した。

それを手に取った隆二は、目に涙を浮かべた。

「６週目だって、私と隆二の赤ちゃん。」

「………小さいね、赤ちゃん。」

「まだまだ米粒だよ。でも、お腹に居るんだよ。」

「うん。お腹、触っていい？」

「いいよ。」

私のお腹に宿った隆二との赤ちゃん。

隆二はそっとお腹に手を這わせ、溜め込んだ涙をその手に落とした。

「………パパだよ、わかる？」

まだ手足もくっきりしない小さな命に優しく話しかける。

その姿がとっても可愛いくて、笑みがこぼれた。

「叶ったね、Aの夢。」

「隆二が叶えてくれたんだよ。私、幸せすぎる。」

「俺も幸せ。」

＂Aと出会えて、本当に幸せだよ。＂と、人目もはばからず抱きしめてくれた。

嬉しくて、本当に嬉しくて。

泣き虫な隆二と一緒に泣いて、

そのすぐ後に、一緒に笑った。