恋になるとき。９ (ページ36)

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「A、どうだった？殴れた？」

「いいえ。」

「なんで？ていうか、超暗いけど……なんで？」

キーボードに指を置いたまま意気消沈する私の隣でまゆはポカンとしてる。

隆二と別れて事務室に戻ると、まゆが＂部長には言っといたから、トイレと仲良くしてるって！＂とドヤ顔で迎えてくれた。

それはどうでもいいんだけど……。

心ここに在らずな理由。

それは隆二の激怒。

＂いい加減にしろ＂と真顔で言われたら、それ以上何も言えなくなって。

固まる私に＂終わったら電話して。＂とだけ言い残して、給湯室を出て行った隆二。

とてつもなく怖かった。

私が悪いんだけどね、たぶん。

元を辿れば隆二だって……、とは言えない。

残業したいなぁ、岩田さん。

こんな日にタイミング良く仕事を与えてくれたら株上がるのに、岩田さん。

そんなくだらない事を考えていたら、あっという間に迎えた終業時刻。

「A、携帯鳴ってる。」

デスクの上でブーブー震える私の携帯。

＂電話して。＂なんて言っていたのに、定時きっかりに鳴らす隆二。

恐る恐る通話をタップした。

「終わった？」

「………終わりました。」

もう逃げられない。

「下で待ってるから。早くね。」

「すぐ行きます。」

のそのそ荷物をまとめる私を＂あっ、怒られたパターンね。＂とまゆは納得していた。

いつもの事だよね、これ。

鉛が付いたように重い足取りで向かった正面玄関で、隆二は誰かと携帯で話していた。

私に気付いて＂うん、すぐ行く。＂と言って電話を切った。

「どこに行くの？」と聞けば「遅すぎ。」と望んでいたものとは違う応えが返ってきた。

気まずいまま乗り込んだタクシーの中、そっと握られた私の手。

仲直りのきっかけは、いつも隆二から。