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約束の金曜日ーー。
開店したばかりのラーメン屋さんは、案の定たくさんの人で行列になっていた。
「あ、あの人絶対並ぶでしょ!」
これ以上、後ろにならないように小走りで列に突っ込んでいく隆二、くん。
一歩の差で、前に並ぶことが出来た隆二くんは満足気な顔で振り向いて「おいで」と手招きをしている。
日本中の女の子から黄色い歓声を浴びる人気者の彼が、我先にと人混みをかき分ける後ろ姿に可愛らしさを感じた。
なんか、私っていつも隆二くんの背中ばっかり見てる気がする……
私を引っ張ってくれる人、それがピッタリな言葉。
「隆二くん、足早い!私、置いてかれたし」
「いやいや、置いてったわけじゃなくてさー!先に並んでてあげよーって思ったんじゃん!」
「………うん、知ってる」
俯いた私を覗き込んだ隆二くんと目が合って、にっこりと笑ってあげた
「なんだ、怒ってんのかと思った」
「怒ってないですよ、わざとだもん」
「もー、大人をからかうなよ。ほら、座りな」
鍛えられた腕に手を引かれ店の前に置かれた、行列の群れに隠されていた木製のベンチに座らせてもらった。
大人をって、歳あまり変わらないんだけどなぁ。
サァーっと冷たい風が吹き付け、冷えた手に息をかけて擦り合わせた。
「これ、あげるよ。もう温まったから」
座る私の前に向き合って立つ隆二くんが、ポケットから取り出して差し出す
「カイロ!持ってたんですか!……ありがとうございます」
受け取ったカイロは十分温まっていて、手がジンワリと温かく溶けていく。
「いつも、Aちゃん寒がってるじゃん?事務所出るとき開けたから、もう熱々だわ」
「あ!だからポケットの中でガサガサいってたんですね?」
ニコッと笑った隆二くんは、窓に貼られたメニューに目を向けて「味噌と醤油どっちにするー?」と話題をすり替えた。
恥ずかしいのかな?
事務所からタクシーでここに向かってる間、ずっとポケットに手を入れて変に動いてたから……ちょっと気になってた。
まさか、カイロを揉んでたとは思わなかったなぁ。
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作者名:taka | 作成日時:2016年3月17日 18時