月とオレンジ 13

528 シロツメクサ ページ37

太「実を言うと

咲良のこともあって。





あいつ、何も言わなかったけど…

大分心配してたみたいだから。」






心配…私と太輔のこと






でも、そもそも私と太輔は

記憶を失くすまで付き合ってた






今になってはそれさえも

夢だったんじゃないかって思うけど






太輔は咲良さんとも付き合ってて…






『太輔とずっと付き合ってた』







太「あいつのこと不安にさせたくないなって。

胎教にも悪いだろうし。」






『お腹に子供がいるの』



…。






「…太。






藤ヶ谷先輩…本当に…」







咲良さんと付き合ってたの？


お腹の子は太輔の子なの？


私にずっと嘘ついてたの？



…とは聞けなくて







「本当に……私のこと…。」







『無理に思い出させようとすると

記憶が壊れる』






ギリギリの言葉を絞り出す








太「…ごめんね。

やっぱり俺、何か忘れてるのかな。」








太「なんでなんだろ…




そのことを思い出そうとすると

すげー苦しくなんの。






すげー苦しくて…辛くなる」







そのこと…私のこと






辛く…







太「だから…無理に思い出そうとするのやめた。






辛いと感じる記憶を

無理に取り戻そうとする必要はないって…先生が








それに

思い出そうとしなくても

思い出すべき記憶は戻ってくるだろうし。」






辛いと感じる記憶





辛かったのかな…





思い出すべき記憶って…






じゃあ





「思い出せない記憶は…」








太「先生が言うように

思い出さなくてもいい記憶…

なのかもしれない。」







思い出さなくてもいい…







それって、つまり…私のことは







太「思い出さなくてもいいとは

思ってないけど



でも、過去の記憶より

これからのことを大切にしたいなって。」








過去の 私の記憶より…

これからの咲良さんとの未来を大切にしたい






…。







私のことは…思い出さなくても







その瞬間、走馬灯のように

今までの記憶がよみがえった







『藤ヶ谷太輔です。』



会社の入社式から今日まで

決して長い時間じゃないけど…






やばい…なんかもう…







泣きそうになっているのを

太輔に気づかれたくなくて

足元に視線を落とすと








アスファルトの隙間から小さな小さな







「シロツメクサ…」







『白くて小さくて…

Aちゃんに似てたから』

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