月とオレンジ 5

122 F 俺は俺 ページ20

藤ヶ谷said





そういえば、いつもそう





北山の話をするときは、本当に嬉しそうで……





でも、たまにすごく辛い顔をして






なんだろ



まるで自分を見てるみたいだった






でも、決定的に違うのは

俺は咲良も渉も傷つけてる最低野郎だってこと







無邪気に笑って

無邪気に泣く君は

俺には眩しすぎる








それから駅に着くまではまた他愛もない会話






「……全然、変わらないんだね。」







昨日の話で、お酒が抜けたら

すげー引かれるんじゃないかって思ってたから







つい口から漏れた言葉








A「……正直、びっくりはしました。




やっぱり考えちゃったし……」






だよね……内心は






少し視線を落とすから

言葉を選んでくれてるんだと思った









A「……でも

藤ヶ谷先輩は藤ヶ谷先輩だから//






人を好きになるってことは、尊いことです//」








って、満面の笑みをこちらに向けてくれた







俺は……俺





「……尊い……か(笑)」



って、笑うと照れ臭そうに髪を触った







駅で彼女と別れた帰り道






携帯の画面に視線を落とす





咲良の名前


でも、そのまま携帯の画面を暗くした








『藤ヶ谷先輩は藤ヶ谷先輩だから。』







Aちゃんの笑顔が脳裏に浮かぶ





尊い







世間では不倫だと非難される俺と咲良の関係

誰もが汚いと軽蔑するような






でも、Aちゃんは、そんな俺の想いさえ

美しいもののように扱ってくれる







最低なことしてるのに






俺は……俺……って






だから俺は……




前に進みたい







彼女との約束を

簡単に破るわけにはいかなかった

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