STORY47 契り ページ3
あの後のことは、ぼんやりとしか覚えていない。
あっさり父は悪かったと言って、抱きしめ、あの温かい手で撫でてくれた。
14年ぶりの大好きな手のはずだった。
にもかかわらずよく思い出せない。
_____
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「はっ…お前は本当に強気で生意気で__いい女だな。」
今、父は何て…?
いい、女?
いやその前にその表情…。
私がずっと見たかった、優しい顔だった。
「…まだお前は知らないんだったか。私とウメは契りを交わした仲なんだ。」
チギリ、ちぎり、千切……契り…?
「…何の。」
「婚約のだ。」
またしても時は止まった。
多分このときのために、時が止まるなんていう言葉は作られたのだ。
道理でウメさんは父に強気なわけだ。
いや道理でじゃないよ。
勝手になんとなく少し裏切られた気分になる。
父に母がいたのにという気持ちと、ウメさんは私の味方だと思っていたのにという気持ちが入り混じり、複雑だ。
「お嬢様、突然のご報告で驚かせて申し訳ございません。」
ウメさんは眉を下げ、それでも凛とした声色できっぱりと告げた。
「婚約と言っても、本当に婚姻を結ぶわけではございません。将来遺産の問題もありますし、奥様もおりますし…成田家の家族の一員には恐れ多くもなれませんが…旦那様のお側で、生涯支える所存にございます。」
ああ、彼女らしい。
単純にそう思った。
控えめで、謙虚で、それでいて自分の意思を通す強さがある。
「私は戸籍より夫婦にと言ったんだが振られてしまってな。」
「…はあ。」
…そんな間抜けな声しか出なかった。
どう反応したらいいのかわからなかったのだ。
そうして父は謝罪した。
__
_____
父は母が死んでから、最初こそ悲しむ私に寄り添おうとしたが、次第に母にそっくりな私を見るのが耐えられなったらしい。
私をないものとすることで自分を保ち、しかし私のことを愛しているがゆえ苦しんできた。
せめてもの償いにとしていた行動は前に私が述べたものの他にもたくさんあった。
私が家出した後ではこっそり定期的に様子を見にいかせていたことも判明した。
予想はしていたけれど、惚れた女性に怒られあっさり意地を文字通り捨てた父を見て、やっぱり変わったと実感した。
___そうだ私、総悟君を連れてこいと言われた。
定期的に私を見にきていた者のせいでばれていたのだ。
まだ恋人になれるかわからないんだけどなぁ。
…会いたいな。
胸の控えめな光を握りしめた。
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たいる(プロフ) - れれんさん» ありがとうございます!コメントくださり嬉しいです。 ご期待に添えるよう励みます! (2021年3月20日 16時) (レス) id: 14bca84003 (このIDを非表示/違反報告)
れれん - 初めまして。完結おめでとうございます!番外編も楽しみにしています! (2021年3月18日 19時) (レス) id: 495a38581f (このIDを非表示/違反報告)
たいる(プロフ) - みけさん» ありがとうございます…!初めてコメントを頂き、本当に嬉しいです!人物像にこだわって書いていたので、夢主さんの美しさをわかって頂いて本当に感無量です…!できる限り早めの更新を心がけますので、これからもよろしくお願いします!! (2021年3月6日 1時) (レス) id: 14bca84003 (このIDを非表示/違反報告)
みけ(プロフ) - とっても美しい人物像をお作りになりますね…!たいるさんのきめ細やかな心がなせる技だと思います!一気読みしてしまいました…!更新楽しみにしてます!あ、でもご無理はなさらず! (2021年3月5日 0時) (レス) id: 44e1804c7a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たいる | 作成日時:2021年2月21日 23時